詩集「楽園崩壊」
「エデン」
抱きしめているのに、冷えていく。
ここは暖かいエデンのはずなのに、
空は暗く、寒い。ここは、寒い。
アダムとイヴはどこなのか、リリスはどこなのだろうか。
ここは寒い。
もう少し強く抱きしめてみる。
それでも君は、冷えていく。
閉じた目はなにも語らない。爪は紫色になり、
青ざめた顔に映える紅の唇は1ミリも動かない。
抱きしめているのに、冷えていく。
君は僕を置いて本物の「エデン」へ行ってしまった。
ひとりで。
抱きしめていれば そのうち
暖かくなって君も起きると思うんだ。
だから僕は君を離さないよ。
けれども君はどんどん冷たくなっていくね、どうしてだろう。
本物のエデンはもっと暖かいだろう
花が咲いているだろう、空は青く鳥が鳴き、常に少女の声が響く。
木陰で少女たちを見守る親がいる。
木には林檎の実がなり、皆でそれを、そう、君のような白い歯で
食していくのだ。
抱きしめているのに君はもうこんなに冷たい。
紅の唇ももう紫になりかけている。髪の毛はひんやりしている。
なぁ、君。
そっちの楽園はどうだい、暖かいかい?
都会の醜さはないだろう。田舎のやわらかい匂いがするだろう。
時々、甘い匂いがするのだ。それは誰かのうなじにつけた香水。
そして、神々が君らに与える束縛の自由
僕も早くそちらに行きたいよ。もうこんな廃れた楽園はいらない。
すべてを剥ぎとって、目を大きくあけ 叫び、泣きたい。
そして君のもとへ走って行き、だきしめたい。
それこそが、僕のエデンだ。
「君は雨に似ている」
雨の匂いが鼻にこびりついた。
僕の頭の中は君という名前と顔で埋め尽くされている。
雨の音が消えない。
君という名前はとても美しいと思った。
できたての林檎よりも、大統領の言葉よりも、愛よりも、なによりも。
君という顔はとてもかわいいと思った。
近所の犬よりも、人気の歌手よりも、夢よりも、なによりも。
君という人は、とても僕に似ていると思った。
同時に僕ら二人は世界に酷く似ていた。
僕らは未来の地球だ。
僕らは永遠のトリになれる。
僕らが、世界になったら、きっと雨を降らすだろう。
濡れた土の匂い、煙の色、午後の少年たちの内緒話。
僕らが、世界になったら、きっと願うだろう。
君の幸せを、君が死ぬまでの幸せを。
君という人は雨に似ていると、思った。
雨のように気まぐれで、もろく、冷たい。
雨はまるで君のようだ、まるで君は雨のようだ。
繰り返し見た夢をもう一度見ようと思う。
君という 雨の夢。
「おもちゃすら大事にできない子ども」
もろくなるのを 許して。
甘えを許して。
母親って人に、愛されるなんてこと
体験したことなかった から
ずっといままで、必要ないって言われてきた 自分を
君は 必要としてくれて、愛してくれた。
だから自分も君を愛そうと思った
大好きだと思ったずっとずっと一緒にいたいと思った。
これはただの自分勝手なのかな。
もしも自分勝手なら、僕はいつか君を壊してしまいそう。
こんなにも好きで、君に依存しているようだ。
こんな僕を許して。
愛されるのがどんなことかわからなかったんだ。
母親と父親に愛されるなんて、ありえなかったんだ。
けれど君は僕を愛してくれて、大事にしてくれた。
守ってくれた。
だから、僕も君を守りたいのに
どうして、こんなにも弱いんだろう。
君に依存している限り、僕はきっと君を守れない。
守るどころか、壊してしまいそうで。
いっそ突き放してくれたらいいかもしれない。
あの母親と父親のように、殴って、罵ってくれたらいいかもしれない。
もう生きる気力を失わせるくらい、罵倒してくれたら
楽になれるかもしれない。
君への依存が、消えるかもしれない。
それが幸せか不幸せかは、わからないのだけれど。




