第12話 乱入者と笑顔
突然乱入してきたのは、まあ、えっと、国王であった。
「ト、ト、ト、トルチェちゃん?なぜ、こんなところにいるのかな!?」
なんというか、もうその顔は蒼白である。国王がこんな顔を見せちゃ、国民は不安だろうな。
「お父様、何をなさっているのですか?今日の入学式といい、私の立場というものを考えてください。今回の入学式は、我がバルミカル王国始まって以来の恥。その不始末もしっかりとつけないうちに、このようなところに来る暇などないではありませんか?」
トルチェの冷ややか過ぎる視線に目を泳がせる国王であるが、ハッとして、言い返す。
「そんな事より、なぜ余が用意した下宿先ではなく、このようなところで暮らしている?それも、こんな男と!」
「お父様、私の下宿にいくらかけたとお思いですか?私たちが、今暮らしていけるのは、民の血税があるからです。それを、私の下宿のようなことで無駄遣いをしてはなりません。もともとあそこは出ていく予定だったのを、こちらにご厄介になることにしたのです。まあ、将来を誓い合った男女が一つ屋根の下で暮らしても何の問題もないでしょう。」
蒼白な国王の顔は、もう見るのも可哀想になるほど、白くなっている。そのまま、しばらくユラユラと揺れていたが、突然、フフフと笑い始めた。
「そうか、こんな簡単なこともわからないなんて、余も随分と老いたものだ。昼間は立場上、強い魔法は使えなかったが、ここなら壊れても問題ない。そこの小僧もろとも、消し炭に変えてくれよう。久々の大舞台だ、出てこいガルダルセン!」
国王が腕を伸ばすと、そこに精霊が現れた。赤が基調となり、緑が混じっている。そして、ものすごく色が濃い。
「あれは、お父様の高位精霊!普段は恥ずかしがって出てこないけど、一度姿を表わすと、その姿を見た者全てを焼き尽くさないと気が済まないという伝説の精霊の一柱よ!」
なるほど、トルチェ、お約束の説明をありがとう。そっちが本気ってことはこっちもそれの答えないとな。まあ、トルチェに秘密を話そうと思っていたから、この国王にバレても問題ないし、やばくなったらこの国から出ていけばいいだけだし。
「サフィ、姿を水の高位精霊に変えてくれ。まだ、彼らに白色精霊を見せてやる必要はない。」
『わかりました、ご主人様。』
サフィが、弱い緑の光の代わりに強い青色の光を放ち始める。
「ほう、やはり貴様の精霊は正体を隠していたのか。ふ、しかしそれでこの余に勝てるとでも思っているのか?片腹痛いわ!!」
ガルダルセンが炎を噴く。火と風のコンビネーションにより、圧倒的な勢いでチカラに向かう炎であったがサフィの魔法によりあっさりと相殺される。
「なんと、このレベルではまだ耐えられるか。では、ガルダルセン!最大出力だ。高位精霊の力を見せつけてやれ!」
国王の命令にガルダルセンは火を噴く。事はなかった。それどころか、急にガタガタと震えだしたガルダルセンはたちまち国王の後ろに隠れる。
「おい、どうしたのだ、ガルダルセン。百戦錬磨のお前が何を怯えている。そのようなお前など、見たことがないぞ。・・・。いや、たしか昔一回だけ。しかし、彼の国はもうないし、彼女の所在も今では知れていない。例の噂もあるが、それでも彼女は此処にいないはず、いや、しかし・・・。」
蒼白から更に白くなっていた顔は、もう白さを越えて土気色になっている。
「あら、お久しぶりでございます。陛下。ガルちゃんも相変わらずね。下がうるさいのと、久々に懐かしい魔力を感じたから降りてきたのだけれども、まさか、あなたのような人が、このような家に来るとはね。ああ、トルチェちゃんに会いに来たのですか?大丈夫ですよ、彼女はいい娘ですから。それより、なぜ、ここで魔法を使わなくてはならない状況があったのでしょうかね。この家に住むものとしては不安だから、説明してくださいます?国王様?」
冷え冷えとする笑顔を振りまいて現れたのは、ミルテさん。ドルカニア王国、元皇后、ミルテアーテ・シクト・ドルカニアその人であった。
「な、なぜ貴女様がこのようなところにいらっしゃるのですか・・・。」
あ~あ~、国王はもう汗をだらだらと流しつつ、必死に口を動かして質問する。しかし、ミルテさんはそんな事は聞こえていないとでも云う風に無視した。
「ガルちゃん、ちょっと聞きたいことがあるのだけど、こっちにいらっしゃい?」
その言葉に、ガルダルセンは更に震え、国王の背中に隠れる。
「ガルちゃん?私のいうことが聞けないの?」
今度は、かなりドスの利いた声で言う。その瞬間、ガルダルセンは弾かれた豆鉄砲のようにミルテさんの前に飛んでいく。ミルテさんは懐にガルダルセンを入れると、その頭を撫でながら聞いた。
「ガルちゃん、さっき魔法を使った気がするのだけれども、どういうつもりで使ったの?」
「お、おい!ガルダルセン!お前の主人は余だぞ。その女の言うことなんか聞いてはいけない。いいか、何も話、ひいっ」
ガルダルセンに必死に命令しようとする国王であったが、ミルテさんが睨みつけると震え上がって黙ってしまった。
「さあ、ガルちゃん。あんな、男なんてどうでもいいから全て話しなさい、わかっているわよ。あなたは命令に従っただけで、何も悪くないのよね?」
それが、決定打となったのか、ガルダルセンは洗いざらい全て吐いた。そして、現在、我が家のリビングの天井からロープが吊るされ、国王がそれに吊るされていた。そして、机を囲い、僕たちはそれぞれの席についた。これまでの経緯についてトルチェ(と国王)に説明するために。




