第10話 反抗期の愛情表現について
今話は非常に危険な行為があり、現実で同じ事をすると、犯罪となります。良い子の皆さんは反抗期でも親への暴力は口だけにしましょう。
そういえば、新入生代表の挨拶の後、なんかに引っ張られる感じがするなと思いながら僕は自分の席に戻っていた。
さて、最後はトルチェの親父さんの挨拶かと思いながら、僕は改めて国王の方を見る。式が始まってからずっと僕は国王に睨まれている気がするけど、きっと気の所為だろう。
そして、国王は演台の前に立ってそしてマイク片手に口を開いた。
「いいか、お前ら!うちのトルチェちゃんに手を出したら、ただじゃおかねえからな!」
僕は、開いた口が塞がらなかった。いや、僕だけじゃない。ここにいるすべての人間が呆然とした顔をしている。
えっと、確か王族の子供ってこの国の最高機密じゃなかったっけ。だからトルチェもわざわざ偽名でここに来たのに。
僕たちが、呆然としているうちに国王節は更に続く。
「確かに、トルチェちゃんは世界で一番可愛い。もう何者にもなく可愛い。そして優秀だ。魔法だってうまい。誰にも負けない。」
そういって、国王はさっと顔を伏せる。
「しかし、なぜなのだ。あの可愛い、素晴らしい、ビューテフォーで可愛いトルチェちゃんが首席じゃないなんて!余は、余は、ずっとずっと期待しておったのだ。魔法高校の入学式の時、正面に立つ余の前で頬を赤らめながら、新入生代表の挨拶をするトルチェちゃんを!そのために、周囲の反対を押し切ってこの二高の入学式に来たのだ。誰が、一高なんかに行くか。余にとってトルチェちゃんのいるところがすべてなのだ。」
あ~、なんかすごく嫌な予感がする。しかも隣に座るトルチェの顔が真っ赤になり、プルプル震えている。
「なのに、蓋を開ければ、どこの馬の骨かもしれない男が首席だぁ?こんなの許されるはずがない!しかもそいつはトルチェちゃんのとなりに座っているではないか!少しくらい、恥をかかせようと風魔法で転ばせようとしたら軽く阻止するし!ええっ?首席の余裕だ?ざけんじゃねぇぞ、こらぁ!余はこの国で一番偉いんだからな!」
ブチっという音がして、となりに座っているトルチェが立ち上がった。
「お父様?先程から黙って聞いていれば、随分ないいようではありませんか?」
トルチェは赤さを越え、完璧な無表情で口を開いた。しかし、その危険さに国王は気がつけない。
「おお、トルチェじゃないか!可愛い愛娘よ。しかしな、せっかく今まで秘密にしていたパパとの関係を自ら告白してしまっては、まずいではないか?そりゃ、パパと会えてそんな事も忘れるくらいうれしいのは十分わかっているが・・・。」
いや、最初にばらしたのって国王だし!
「ようし、今度パパとお風呂に入ろうか?」
「お・と・う・さ・ま?」
ようやく、トルチェが怒っていることに気がついた国王は、今更ながら震えはじめた。
「えっと、トルチェちゃん?何を怒っているのかな?」
「そんな事も分からない無能な人間は、国王にはふさわしくないと思いますが・・・。」
「い、嫌だな~。パパは怒らせることなんてなんにも。は!そうか、その男が原因だな!よし解った。パパがその男を排除してくれよう。」
そう言って、国王が僕に向けて強力(であろうと思う)魔法を放った。しかし、僕の目の前でその魔法は霧散する。
「ありがとう、サフィ。」
僕が頭をなでると、サフィは嬉しそうにはにかんだ。
「そう、お父様は私のダーリンに向かって攻撃するのね。つまり、私を敵に回すと!」
そう言うと、トルチェはリースと協力して魔法を編む。
「リース、“ショット”!!」
先の尖った水の弾丸が国王に向けて飛んでいく。しかし、国王は平然とそれを見ている。眉一つ動かさず、余裕で弾丸を見ている。
そして、水の弾丸は国王の目の前で、霧散・・・すること無く、その玉体に突き刺さった。
「ぎゃー!痛い痛い!!」
壇上を転げまわる国王にトルチェは汚物を見るような視線を送っている。
「ゲーリッヒ!なぜ、余を守らない。」
国王はそう言って、横に控えていた男に怒鳴りつける。因みにこの人にもさっきの流れ弾が降り注いでいたけど、すべて魔法で相殺していた。横でトルチェが、あれはお父さまの護衛官よ、っと教えてくれた。
「いえ、陛下。親子のコミュニケーションに水を指すのは無粋なものかと。」
このゲーリッヒさんも呆れた視線を向けながら言う。
「これのどこが愛情表現なのだ。刺さっているだろ、刺さって!」
国王は自分に治癒の魔法をかけながら、喚き散らす。
「陛下、これも愛情表現です。世に言う反抗期ってものです。この暴力的な愛をすべて全身で受けてこそ立派な父親なのです。」
ゲーリッヒさん。そんないけしゃあしゃあと嘘を言わなくても・・・。
「なるほど、ゲーリッヒ。わかった、余は真の父親に成るぞ。さあ、トルチェちゃん、お前の愛をすべて受け止めてあげようではないか。」
そう言って両手を広げた国王に向かって、・・・。
トルチェは無慈悲にショットを降り注いだのであった。
次話は、14日正午です。




