第4話 奇跡の大蘇生
真ん中から、チカラ視点になります。
血の海の倒れこんだものは2つあった。そして、その一方の背に深々とナイフが突き刺さっている。
そして、もう一方の無傷のもの、アニーがムクッと起き上がった。
「あ、え、ああ、」
アニーは自分に抱きつくように倒れ込んでいるチカラを見て、声にならない何かを発していた。
アニーがナイフを突き下ろそうとしたとき、チカラはアニーにちょうどタックルするような格好になり突っ込んだのだ。幸い、ナイフが刺さる前に懐に入ることができ、アニーにナイフが刺さることはなかった。しかし、ナイフの力を止めることはできず、結果チカラの背に刺さることになった。
「いや、ダーリン?なんか背中に刺さってるよ。ねえ、これは冗談なんでしょ?こんなタチの悪い冗談はやめて頂戴。二高の首席でしょ。こんな事で死ぬわけ無いわよね?ねえ、動いて、お願い、ダーリン。」
トルチェはふらふらとしながらチカラに近寄っていく。アニーもその場から動くことができず、ガタガタと震えていた。そして、トルチェがチカラに触れようとしたとき、まばゆい白い光とともに凛とした声が聞こえた。
『おふたりとも気を確かに持ってください。今ならまだ間に合います。私に協力してください。』
それは、本来の力を何一つ隠すことなく白く輝くサフィがいた。
『今、私とおふたり、そしてリースを除いてすべての時を止めました。』
白色に輝くサフィの右手が時を表す銀の光が灯っていた。
「そんな!こんな大掛かりな時魔法があるなんて、それに白色精霊なんて聞いたことがないわ。」
トルチェが呆然とつぶやくと、サフィは少し微笑んで、
『詳しいことは後ほどご説明します。まずはご主人様を治すことから始めましょう。私がまず、空魔法で患部の修復を行います。その後、リースの回復魔法で仕上げをしてください。』
そう言うと、サフィは左手を銅色に輝かせる。
「ね、ねえ。回復魔法で空魔法を使うとか私見たことがないわ。大丈夫なの?」
トルチェはまだ何が何だかわからないような感じでサフィに尋ねた。
『ええ、これは厳密には回復魔法ではありません。空魔法で、ご主人様のナイフで刺されたところを元の形になるように空間修復しているのです。最も、私もご主人様以外では完全に修復できる自信がないので、ご主人様以外には使えませんが。』
空魔法の基本的使用方法は身体強化である。空間保存を使って体の形を固定し、鉄壁の防御を成すためのものである。間違っても、空間修復なぞやろうとするどころか、考えることすらしないだろう。
チカラの傷口がみるみるうちに修復されていく。
『これは、生命維持とかは全くされていないので、トルチェ様のほうで回復魔法をかけていただけますか?』
サフィの問いかけにトルチェは慌ててリースと一緒に回復魔法をかける。回復魔法は人体の殆どを占める水分を活性化させ、生命力を増加させる魔法である。多少の傷であれば増加した生命力による自然治癒力で治ってしまう。
チカラの顔色が大分良くなった頃、サフィは継続していた時魔法を解除し、時間を動かし始めた。その後、宿のベッドにチカラを運ぶのであった。
アニーがナイフを振りかざした時、僕はとっさに行動をとっていた。ロシア大統領のボディーガードをやってたからか自然に体が動いた。けれども、ほんの少しの時間が間に合わなかった。背中が焼けるように熱くなり、ナイフが刺さったことが瞬時に理解できた。理解した瞬間これは助からないだろうと解った。現代日本であれば手術により何とか助かるかもしれないが、ここは異世界。まず無理だろう。後ろからトルチェの叫び声が聞こえる。はは、これでアニーとしっかり仲直り出来ればいいかな。
遠ざかる意識の中、なんとなくサラの顔が浮かんだ。いっつも怒らせてばかりで、なんだか嫌われているかもって思うけど、これで少しは悲しんでくれるかな?そんな事を思いながら僕は意識を手放した。
ふと目を開けると、どアップでトルチェの顔があった。アニーも申し訳なさそうに、しかしほっとした様子で部屋の隅に立っていた。
「えっと、トルチェ?顔がすごい近いんだけど。あのあと、いったいどうしたのかな?」
血が足りないのか、体がだるい。トルチェはみるみる涙を流し、抱きついてきた。もちろん、体が動かない僕はされるままになっている。
「え~と、アニー?一応、現状を教えてくれると嬉しいんだけど・・・?」
とりあえず、アニーに助けを求めると、アニーはいきなりその場で土下座した。
「この度は、私なんかの事を助けていただきありがとうございました。」
いや、謝罪とか感謝とか全然要らないから、誰か現状を教えて欲しいんだけど。しかも、こんな時に限ってサフィはどっかに行ってるし。
『僭越ながら、私がご説明させて頂きます。』
首を反対に向けると、トルチェの精霊が呆れ顔で話し始めた。
『チカラ様が倒れた後、チカラ様の精霊サフィ様が本来のお力を顕現されました。そして、時魔法と空魔法を駆使してチカラ様の治療を行いました。生命力に関してはサフィ様に余力がなかったので、主であるトルチェ様と私で回復魔法をかけさせて頂きました。ただ、力が足りず、最低限の生命維持を確保するのがやっとでしたので、しばらくはまだ安静が必要です。』
リースは良くできた精霊のようだ。それに比べ、主ときたら、未だにくっついている。
「トルチェ、絶対安静らしいぞ。離れてくれ。」
「やだ、やだ。ダーリンのいじわる。絶対に離れないもん。すっごく心配したんだから。それにダーリンは私の初めてを奪ったんだからしっかり責任とってもらうんだからね。」
ちょい待て、初めてを奪った?僕は何をしたというのだ。いや、ナニではなくて。するとリースが更に呆れ顔になって言った。
『チカラ様、お気にすることはありません。主は今まで甘やかされ、いえわがままに、ではなく過保護に、じゃなくてとてもとても大切に育てられたので一度も叩かれたことがなかったのです。それをチカラ様が叩いてしまったから・・・。』
なるほど。変なことじゃなくてよかった。
『それと、今サフィ様がご家族をここに呼びに行かれているので、もうまもなく到着されるかと。』
なに、ってことはサラとかキャニとかミルテさんが来ちゃうのか。
「トルチェ、まずい。お願いだから離れてくれ!!」
その瞬間、部屋の扉が開かれた。




