第1話 カルキレ帝国の歴史
今話は説明調です。特定の誰からの視点というわけではありません。エルバトーレ公爵の華麗なる出世術です。
ものものしい雰囲気がその場を取り巻いていた。カルキレ帝国皇宮玉座の間。その玉座には、やせ細った、ミイラのような男が座っていた。歳の頃は大体、60くらい。しかし、その姿に既に生気はない。重すぎる王冠を支える力もなく、王冠は座の横に小さなテーブルが置かれ、その上に置かれていた。
現在の皇帝カルキュール11世の即位にあたっては一悶着あった。先代ライオネス8世は稀代類を見ない賢王であった。帝国は彼の治世のもと、大陸屈指の大国に上り詰めた。領土は約30倍に増え、しかし占領した土地に対する悪行は全く起こさなかった。占領地も更に栄えるという噂が他国に広まると、統治に限界を感じていた周辺諸国の諸侯たちは、次々に恭順の意を示し、その属国となった。また、彼は義を重んじ、自国の利益のために他国に攻めこむようなことは、その統治32年の間、ただの一回もなかった。しかし、隣国が圧政により民が苦しんでいる解ると、一切の妥協なくその国に攻め込み、民を救った。このような、皇帝であったので帝国における王室への忠義は絶対のものであった。
ただひとつ、彼ライオネス8世が行った悪政と言えば、その後継者問題であったことは彼の国の関係者なら口をそろえて言うことであろう。彼には、3人の子どもがいた。聡明で、父を助け誰からも愛された長男。国民の誰もが、彼があとを継ぎ、この素晴らしい賢王の国を更に発展させるであろうと思っていた。次男は生まれつきの病弱でベッドからまともに起き上がることさえも出来ない王子であった。そして、三男が放蕩息子として父を悩ませ続けたエルバトーレであった。その放蕩ぶりより早々に公爵にされ後継者としては絶対に有り得ないものだと目されていた。事態が一変したのは、ライオネス8世が崩御した時であった。生前に残された遺書には後継には次男を、つまり現在のカルキュール11世をと書かれていた。
国の誰もが異議を唱えたが、それを沈めたのは長男の第一皇子であった。亡き賢王の思慮深さゆえと皆引き下がった。
新王即位から、一週間後。親王は突如、ひとつの辞令と命令を下した。あの放蕩王子であった三男エルバトーレに帝国軍最高位である大将軍と近衛騎士団長を兼任させる辞令である。そして、もう一つが長男に対する謀反の嫌疑による粛清であった。そして、長男は都の中心でおおよそ人の考えつかないような惨たらしい方法で処刑され、帝国一の美女と評判高かったその妻と、まだ10歳になったばかりの娘はなぜかエルバトーレに奴隷として下げ渡された。この瞬間、先王がまずはじめに行ったすべての奴隷の解放政策により創りだされた奴隷のない平等な社会が崩壊した瞬間であった。
人々はこのときになって初めて、今までの全てがエルバトーレによる策略であると知り、エルバトーレを討つべしと立ち上がったが、既に軍を掌握していたエルバトーレにより、逆に叛徒として全て粛清された。気がつくと、最早、帝国はエルバトーレの天下であった。その後も帝国は軍事第一主義を打ち出し、近隣諸国を蹂躙していったのである。
 




