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四:歯車は勝手に廻る

 ★スタジオに入ると、大音量の音楽が流れてきた。プロジェクターで壁に映し出された映像。正面に運んだ椅子に腰掛け、奴はそれに見入っているらしい。

 一週間位前に撮り終えたばかりの、俺達の新曲のプロモだ。マネージャーのジェシーだろう、恐らく頼まれて俺達の許可もなく渡しやがったらしい。止めときゃ良かった。

 ちっと舌打ちする、ーー感情的になるなよ、と冷静な俺が喚起してきた。気を引き締めて、振り向いた奴に俺は対峙した。

「いい歌だ。心に染みる」

 作詞:タイガー、作曲:俺の、珍しく応援ソング的な歌だ。失ったものをバネに前に進もう、的な。

 正直、真逆だと思った。俺なら、失ったものは利用しない。なくしたものは、「これからの為の糧」の立派な教材になんざならない。思い出しもしない。記憶にも残す必要はない。そこから学ぶ事など何もある筈がない。

 なくしたもんは、なかったもんだ。自分には必要なかっただけのもんだ。ーーこいつみたいに。

 無言で立つ俺を、奴は見上げている。まるで俺の考えを見透かす様に。奴は薄く笑った。

「タイガーから俺への決別の歌にも聞こえるけどね」

 自覚、あんじゃねえか。無表情を貫く俺をじっと見つめ、奴は続ける。

「作詞は今度もタイガー、か。お前は……『作らない』のか、『作れない』のか、どっちだ?」

 その質問が無遠慮に踏み込んだもんかそうじゃないか、なんてのに左右されはしない。野郎の質問に、俺が答える気があるかないかだ。

 当然、答える気なんざ微塵もありはしない。答える義理もない。無機質な視線だけは外さない俺を見ながら立ち上がった奴は、ゆっくり俺の前にやって来た。

 今度は見下ろされて、それでも態度を変えない俺を暫くじっと見つめ、やがて奴の手がすっと動いた。

 俺の目に掛かる長めの前髪を掻き分ける。嫌がりも何も全くの反応を示さない俺に、奴は小さく言葉を落とす。

「……俺を、恨んでるのか?」

 わざとに、沈黙を貫いてやる。今迄の俺ならば、とっくにキレてざけんじゃねえとか叫びながら力いっぱいに頬を殴りつけていた処だ、多分奴の想像範囲に、ここ迄冷静な俺の反応はなかっただろう。

 暴力的になった俺を諫める事で、奴の優位が確定する。からかう様に抑え込め、主導権を手に出来るから。だから、俺はぴくりともせず人形の様に奴を見上げ続けてやった。

 ーー奴の僅かにも傷付いた顔を、俺は期待していた。或いは、諦めや落胆の表情を。例えほんの一瞬にでも。

 なのに。

 薄く微笑んだ奴にぐいっと腕を掴まれ引っ張られた、と思う間に背中に手が回され、俺の体はがっちりと奴に抱き込まれていた。暴れようかと咄嗟に肩に力を込めたが、直ぐに俺はその力を抜いた。

 ……いいぜ、好きにしろ。死体みたいな俺に、気が萎えねえんならな。

 嘲りを含んでついそう口にしてしまいそうになった、緩んだ口元だけは引き締める。無抵抗のぶらぶらした俺の体を一方的に抱く事に、奴がじきに嫌になるだろう事は想像に堅かった。何としても俺の反応を引き出そうとする、奴の意地が反射的にさせただけの行為だろうから。

 ーーなのにここでも、奴の忍耐が俺の予想を上回るのだ。ぎゅうっと俺を抱いて、それだけで満足なのか奴はいつ迄も腕の力を緩めず、さすがに俺の方がこの事態への苦痛を隠せなくなってきていた。ただでさえ憎らしい野郎に、何でいつ迄もこんな事されて我慢してなきゃいけねえんだ。

 はあっ、といやみの様に大きく息をついてやった。それで呼び水にでもなったのか、奴が先に口を開いた。

「懐かしい匂い、感触、温もり……ずっと二次元のお前しか見てなかった。触れたかった……髪も、肌も、……一番に、大好きなんだ……」

 俺の頭頂部に顔を埋めての奴の囁き、それは何を意味するのか。がっちり回された腕に、更に力がこもる……

「……ロゼ……俺、さ……」

 限界だった。固めた拳を、勢い良く腹に叩き入れてやった。ゲフッとか中身の出そうな声を挙げる奴から身を離す為、拳は今度は奴の左頬に叩き付けた。

 抉る様に、左に薙ぐ。誘導どおりに吹っ飛んで行った奴の、気味の悪かった抱擁からやっと解放されて、俺はふうっと息を吐いた。

 倒れた奴に、用はない。人の事をこそこそ尾行なんかしやがった文句を言ってやろうかと思っていたが、気付いていたと言う事で奴が喜ぶかも知れない可能性を考え、何も言わずに去る選択肢を俺は選んだ。

 その方が蔑みや怒りを表し、奴にはダメージになるだろう。振り向きもせずに淡々とこの場を去ってやる方が。

 俺はお前を赦す気はない、と知らしめる意味で。




 ◆タイガーと二人で話し合っての、結論。デリクをマットと接触させない様にする。

 マットはタイガー監修の下、雑誌の特集記事を書きたい例の記者さんに連れ回してもらって、その間に僕がデリクの本心を探る。何がきっかけで今帰って来たのか、今後どんなポジションでのどんな展開を期待してるのか。

 マットが愛想尽かしていち抜けた、と消えちゃう前に。




 ★「随分ご機嫌斜めね」

 料理を盛った皿を並べてくれながら、アンナはそう言った。

「あー……」

 奴の名前も口にしたくなくて、俺は説明を投げた。どうせ近い内にもっとむかつく事でも起こって、俺はそれをアンナに喋る事になるだろう。仲良くしたらいいのに、なんてあいつをいい方に誤解してるアンナに、下手を言ってまたそう諫められたりなんかしたら、俺が可哀想だ。

 だから、適当に俺は答え代わりの言葉を口にしてみる。

「最近寝不足続きだからさ」

「そう」

 料理を全て並べ終えたのかテーブルに腰掛けて、頬杖を付いたアンナはにっこりと笑った。

「じゃあ、今日は安心して早く寝てね」

「寝れるかよ。ってか寝かさねえよ」

 冗談でもない俺の言葉に、久し振りに逢った俺の恋人は、失礼にもぷぷっとか吹き出してくれるのだ。

「はいはい。ご飯にしましょ」

 一番の俺の理解者。居るだけで、心地よく満たされる。ルークとも似た明るいこの笑顔に、俺は癒されている。

いきなりの彼女登場。はい、三角関係成立ですね!

ちなみにルークとタイガーに進展はありません、残念ながら。

ってか、ここで在庫切れで、まだ続きがまとまってないので、次の更新はいつになるやら……。

まあ楽しみにされてる方もいないと思うので、自己満足で適当に載せていきたいと思います。

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