人生こんなもんだよなー。
「起きて。朝よ、神林君」
大愛に起こされるのは初めてか。いや、2回目か。前にも北海道でこんなことがあった。というか、それって、今月の話じゃん。
それはともかく、大愛に「起きて」なんて言われたんだ、一言、爽やかに返そう。
「ああ、起きてるさハニー」
「眠らせてあげる」
かなり本気で殴られた。しかも数発。主に顔に。鼻曲がってない? 大丈夫?
「じょ、冗談だよ、ハニ――」
また殴られた。俺が悪いんだけれど。でも、だからと言ってそこまで本気で殴る必要はないのではないだろうか。
「あら、神林君。鼻血が出ているわ。大変」
「マジか!」
すぐさま確認。
出てる。
「チョコ食べ過ぎじゃない?」
「食べてねーよ!」
「まさか、わたしといかがわしいことをしようと妄想して……!」
「ちげえよ! つーか、お前の所為だろ!」
「そうね……わたしが下着姿で神林君を起こしたのが悪いのよね」
「普通に制服じゃねえか! だから、そうじゃなくて――」
「『制服』って『征服』と同じ読みで尚且つ『服』が同じだから、なんとなく征服欲が満たされない?」
「どういう理論だ! 確かに『制服萌え』ってのは存在するかもしれねえけど、俺は違うぞ!」
「ホントに?」
「えっ?」
制服姿の大愛を見る。
清純そうな白いソックス。ソックスとスカートの隙間で少しだけ見える生足。派手すぎないブレザー。小さくて赤いリボン。
「ああ、うん……結構いいね」
今まで特に意識してこなかったけど。これは結構いいかもしれない。
「でしょう? 最近の男子はこの魅力になんで気付かないのかしらね」
「ごめんなさい……」
ベッドから出て土下座。
「さて、わたしはご飯食べるから、神林君は撒き散らした鼻血の処理をしてから来てね」
「忘れてた……」
大愛が部屋から出ていく。
「昨日は何があったんだっけ……英語の勉強をして……終わってから……」
えーと。
うーん。
なんだっけ。
って。
「何もなかったじゃねえか!」
少々エロいこともなかった! 何もなかった! しなかった!
男、神林東示、一生の不覚。
なんて、まあ、大愛と約束したし、それを守っただけのことだし。人間としての道から外れたわけではないはずだ。多分。
ああ、でも、英語の勉強してる時に、大愛から良い匂いがした。収穫はそれでいいな。
「人生こんなもんだよなー」
俺はこんなもんでいいや。適当だし、なあなあだけど、楽しいから。
「神林くーん! 早く来てー! 料理が冷めちゃうわよー!」
「はーい!」
なんか、新婚みたい。名字に「くん付け」だけど。
「その前に、こいつの処理か」
ベッドと床と俺の服についた鼻血を見て溜め息を吐いた。