……え?
「なあ、大愛。いつまでいるんだ?」
時計の短針は7を少し過ぎたところを差し、長針は6を差した頃にそう言った。
気付くのが遅かった。
遅すぎる。
「勉強会が終わるまで」
「じゃあ、勉強会っていつ終わるんだ?」
「わたしの気が済むまで」
大愛の『気』なんて知らない。
『気が付く』『気が済む』『気が気でない』とか言うけど、そもそも『気』ってなんだ。
スカウターで計れるのか。
「俺はそろそろ飯を食べたいのだけれど……」
「わたしにも頂戴」
「……え?」
何ヲ言ッテンノ、コノ人。
「……え?」
つい、二度同じ台詞を言ってしまったじゃないか。
「『神林君が食事をするというのであれば、わたしにも下さらない?』と言ったのだけれど、聞こえなかったの?」
「そこまで丁寧には言ってなかった」
「『神林君が食事をするというのであれば、全てわたしに下さらない?』と言ったのよ」
「俺の飯がない!」
「『神林君が食事をするというのであれば、わたしもご一緒していいかしら?』と言ったのよ」
「気になってたけど、なんで全部若干上から目線なんだ?」
「で、どうなの?」
「俺はいいけど、心配されないのか?」
「前にも言ったと思うけど、日本国内にいる限り問題ないわ」
それは前にも聞いた。でも、それってどうなんだろう。放任というか、気にも留めてないって感じだよな。
「相模原さんに心配かけることになるかもしれないけれど、問題はないわね」
「相模原さん?」
それは誰だ。新キャラだぞ。
「OESの一人で、わたしに仕えてるって設定の人」
「ん? 大愛についてんのは佐々原さんじゃないのか?」
どっちも『原』だけど。
「佐々原さん、相模原さん、澤原さんの三人がわたしに仕えてるのよ」
「待て待て、登場人物を増やすな。俺がわけわからなくなる。ただでさえクラスのやつらもどんな名前だったか覚えてないのに」
余談だけど、『わたしに仕えてる』って言い方がなんか嫌だ。
「OESって一体何人いるんだよ」
「この地球上から大愛家と神林君を除いた全て」
「…………」
唖然としたのではなく、呆れた。嘘も程々にしろよ。
「なんてね、冗談よ」
「だろうな」
それが冗談じゃなかったとしたら怖い。大愛グループが世界規模っていうか、世界そのものじゃないか。
「実際はそんなにいないわ。少数精鋭って感じの人たちだから」
「小数ってのはわかるけど、精鋭なのか?」
「精鋭よ。最年長の務川さんって人がいるのだけど、その人にかかれば神林君なんて……。まあいいわ。食事をしましょう」
「その人にかかれば俺はどうなるんだよ! 気になるじゃないか!」
「食事をしましょう」
そこでようやく大愛は俺のほうを向いて立ち上がる。
ここまでの会話を全て勉強しながらする大愛って……。
俺も勉強してたけどさ。気候帯を纏めてたけどさ。でも、大愛が立ったから、俺も勉強を止めて立つ。
どうせ、俺がどうなってしまうのかは訊いても教えてくれないだろうし、もしかしたら、大愛は思いついていないだけなのかもしれないし。その件はもう終わり。
「とりあえず下に降りよう」
冷蔵庫には何が入ってたかなー。オムライスが食べたいなー。材料あるかなー。チャーハンもいいなー。なんて考えながらリビングへ向かう。
そしてリビングのドアを開けて中に入る。
そこには親がいた。母親がいた。
『気』って何なんだろう。気になります。