ああ、いいぞ。
「ねえ、神林君。一緒にお勉強会しましょう」
下校中、大愛が言ってきた。
「は? なんで勉強なんかする必要があるんだ?」
「神林君って本当に先生の話を何も聞いてないわよね」
「いや。俺だってちゃんと聞いてる時もあるぞ」
たまにだけどな。
「神林君が先生の話を聞いているかどうかなんて、蟻がちゃんと自分の巣に帰っているのかどうか以上にどうでもいいからいいけどね」
「例えが微妙だ!」
それに、蟻はちゃんと自分の巣に帰っているはずだぞ。多分。俺はそう思うぞ!
「神林君が先生の話を聞いているかどうかなんてことよりも、わたしのシャープペンの芯が折れてしまうかどうかの方が重大よね」
「俺はシャープペンの芯以下か!」
「神林君が先生の話を聞いていなくたって、地球は回るから問題ないのよね」
「どうして話を地球規模にしているんだ!」
俺が先生の話を聞いていないくらいで、地球が止まったら一大事だろ!
「神林君が先生の話を聞いていようがいまいが、わたしには関係ないことよね」
「それは知らない! お前のことは知らない!」
きっと関係ないだろうけどもさ!
「神林君が先生の話を」
「まだ続けるのか!」
「え、駄目? あと104パターンあるのだけど」
そんなに作ったのかよ。暇だな、おい。
「あと3つくらいならいいぞ」
俺も甘いな。いや、ここで厳しくしても無意味なだけだけど。
「神林君が先生の話を聞いていなくても、わたしには関係ないかもしれないけど、先生には関係あるわよね」
「先生のことも知らない!」
「神林君が先生の話を聞いていてくれたら、先生は喜ぶと思うな」
「そうかもしれないけども、先生が喜んでも何も起こらないだろ」
「神林君が先生の話を聞いていなくても、わたしの話だけはちゃんと聞いてくれているのだったら、わたしは嬉しいな」
「…………」
なんか、最後だけ違うな。一気に雰囲気が変わったよな。
「さて、では話を戻しましょう」
え! この感じで? 今、この雰囲気で!?
「先生があと二週間で中間考査って言ってたの、聞かなかったのよね」
「あ、あ、ああ」
動揺しているのかどうかわからないけど、俺の返答がおかしい。
「だから、お勉強会をしましょうって言ってのよ」
「そ、そ、そ、そうか」
落ち着け俺。落ち着け俺。落ち着け俺。別に、大愛は大して変なことを言ったわけじゃないんだぞ。落ち着け落ち着け落ち着け。
「いい?」
「ああ、いいぞ」
なんか成り行きで『ああ、いいぞ』なんて言っちゃってるし! 俺の理性はどこへ!
「じゃあ、このまま神林君の家に御邪魔するから」
「わかった」
……? いや待て。一気に冷静になる。
「おい、大愛」
「何? 神林君」
「俺の家で、勉強会ってのをするのか?」
「駄目?」
駄目……ではない。がしかし。
「いや待て待て待て。駄目じゃない。駄目じゃないけども、俺の家でか?」
「神林君の家というか、神林君の部屋ね」
「へ、へ、部屋?」
「ええ、部屋」
大愛と、部屋で、勉強会??
「おい、それ、大丈夫か?」
「何が?」
「親御さんとか」
「わたしのことはずっと監視しているでしょうから。とは言っても、GPSで、だけどね。日本から出なければいつ、どこに居ても大丈夫よ」
「そうなのか」
そいつは凄いな。行動制限が日本国内って、広すぎる。
「さあ、そうと決まったら神林君の家まで急ぎましょう!」
「決まってない決まってない!」
「え? だって、神林君さっきいいって言ったじゃない」
「言ったけども……言ったけども!」
色々俺にだって事情ってやつが……。
「じゃあ、神林君の部屋を片付ける時間、10分だけあげるから。それでいいでしょ?」
それなら、部屋に散らかっている菓子の袋とかゲームとか片付けられるな。
「わかった!それならいい!親が帰ってくる前に大愛が帰れれば大丈夫だ!」
というわけでというか、成り行きでというか、大愛に乗せられてというか、とにかく、俺の部屋で勉強会をすることになった。なってしまった。