殺人がどうして起こるのか。
「殺人がどうして起こるのか。今日はこの議題で会議をしていこう」
会議と言っても一人だし、布団の中だし、夜だし、中学三年生なのだけど。
夜は関係ないか。
「って、何となく難しめな議題を挙げてみたけど、これってどう考えればいいんだ? 俺は誰かを殺したことなんてないし、誰かから殺されたこともない。親族が人に殺されたことも、親族が人を殺したこともない。多くの情報が、有象無象があふれるニュースや新聞でしか殺人事件なんて目にしないし、他にあったとしても推理小説やら推理漫画やら。たったそれだけでしかない」
いや。
「世界的な規模で見てみれば、殺人事件なんて日常茶飯事なのかもな。70億人もいて、1日1人死んでも、それが自分や親族に該当する可能性なんて0に近いからな」
0ではないのだけれど。それを分かっている人がどれだけいるのかなんて知らないけど。0ではない。
人は、生き物は、生きながらにして、死ぬ危険性に曝されている。
「特に名言でもなければ格言でもないし、暴言でもなければ失言でもないよな。ただ、一つの言葉なのだけど、重みってやつはあるよな」
言葉の重み。命の重み。ってやつが。
「別にこれが1トンでも、あれは1ミリグラムだ、とかそういう話ではない。むしろ言葉の重みは平等だろうし、命の重みは平等であるべきだ。平等であって然るべきだ。そうでなければ叱るべきだ」
何を、って神を。人間を作った、造った、創った、らしい神を叱るべき。それが然るべきだ。神でなくてもいい。仏だろうと閻魔大王だろうとなんでもござれ。とにかく、命を平等にしなかったやつを叱る。怒る。
まあいいや。命を平等だと思えば平等だし、不平等だと思えば不平等だし、悪平等だと思えば悪平等だろう。要は気持ち次第。だから、命に対する考えかたは人それぞれ。
「無理矢理まとめたところで本題に入ろう。殺人がどうして起こるのか。実は、これについては常々考えていて、結論はもう出ているんだよな。だから、結論を先に言ってしまったほうがいいよな」
『殺人が起きる理由』。それはつまり。
「『殺せば、死ぬから』」
これに尽きる。
他にも色々あるだろうけど、最終的にはこれに行きつく。
もしくは、中学生の脳ではここまでしか行けないのかもしれない。
「簡潔に理由を説明すると――理由ってほどではないけど――恨み辛み嫉み妬み、羨み尊敬畏敬畏怖、そういった感情で人を嫌いになる。そうするといなくなってほしいと思う。そして死ねばいなくなるということに気付く。だから、殺す」
『殺せば、死ぬから』。
『死んだら、いなくなるから』。
『いなくなれば、自分が幸せになるから』。
『自分が幸せなら、それでいいから』。
『自分の幸せ、それが一番だから』。
「逆に、人を殺しても死ななければ、その現状に諦めてそのままでいるだろう。それは自分にとって大変辛いことだろう」
人が死ぬくらいなら、人が辛いほうがマシだと思うんだが、そうではないのかもしれない。中学生の言う戯言を気にしてほしくない。
「人が死ななければ殺されないし、殺されても死ななければ殺されないし、殺しても死なれなければ殺さない」
『殺せば、死ぬのに』、
『殺しても、死ななかった』、
『じゃあ、殺しても、意味がない』、
『殺す、価値がない』、
『死なないと、いなくならないのに』、
『いなくならないと、自分は幸せにならないのに』、
『死なないのなら、殺す必要がないのなら、殺せないのなら』、
「『殺さなくていいや』。ってな感じにならないもんかなー」
ならないもんだろーなー。
だって、人は『殺せば、死ぬ』のだから。
「不謹慎過ぎるな。この話はやめよう」
中学生如きが、こんな話をするんじゃないな。
どうせ何を考えたとしても真相でもなければ、真実でもなければ、事実ですらないだろう。一つの意見止まり。それで終わり。
この22話目もこれで終わり。
俺の今日の記憶も、これで終わり。寝た。寝てしまった。