あぁ!?
「これだから、ゆとりは」
宅配業者のおっさんはそう言った。そう言い放った。
唐突過ぎるな。時間を少し戻そう。
「ただいまー」
いつも通り大愛と一緒に帰り、誰もいない家へ挨拶。なんと律儀な青少年だろう。
そこへ宅配業者のおっさんが来る。展開が早過ぎるったってそうなんだから仕方がない。俺は嘘を吐いてない。
「印鑑かサインお願いします」
と言われたのでサインした。字が下手なのは仕方ない。
「字、下手だな」
おっさんが呟いた。
「あぁ!?」
「あ、いや、そう思っただけだよ。これくらいでそんなに怒らないで」
うわ、むかつくな。
「あぁ!?」
「最近の子は短気な子が多いから怖いね」
「あぁぁ!?」
「これだから、ゆとりは」
宅配業者のおっさんはそう言った。そう言い放った。
と、こういう訳だ。展開があっという間なのは仕方がない。
「ゆとりだぁ!?」
「そう、ゆとり教育なんかを受けている子たちは駄目だね」
俺の中でプチーンと何かが切れた。それは多分、おそらく、きっと、ほぼ確実に、間違いなく、堪忍袋の緒というやつだろう。
「何言ってんだあんた」
こうなったら寡黙とかそういうことは置いておく。仕方がない。
「ゆとりなんかしている子たちは駄目な子が多いね、とそう言ったんだよ」
ここで暴力はいけないだろう。うん。我慢する。
「いいか、俺が言うことを耳かっぽじってよっく聞け! あのな、俺は1度たりとも『ゆとりを受けたいです』なーんて言っちゃいないんだ! だがなぁ、この国のせーふってのが勝手にこっちの意見を聞かずに、自分がこうすればいい、だなんて自己中心的に考えて、そんでもって、俺たちに『ゆとり教育』っつーのをやらせたんだ! あぁ!? なのに、何だ『これだから、ゆとりは』ってのは!? 馬鹿じゃねえのか!? あんたらがやらせたのに、結果が駄目だからって自分を責めず、他人を責めるのか!?」
そこは人間らしいな。
「しかも、こっちは何がなんだか分からず、いつの間にか受けてた身だぞ! それをあーだこーだ、馬っ鹿じゃねえーの!? んなこと言うんだったら初めっからやんじゃねーよ! だろ! 違うってのか!?」
訊くが答えは待たない。
「百歩譲ってゆとりを受けたのはよしとする。それに対して誰も反論しなかったのか!? それに対して何人が賛成したんだ!? 将来的に産まれてくる俺たちの意見を聞いたのか!? 受けるのは頭の固い、自己中心的、自分がよければそれいい、俺に言わしてみれば、それが人間らしかったりするが、そんな野郎どもがやったことだろ!? その頃の日本人は馬鹿か!? 阿呆か!? 間抜か!?」
息を整える。
「更にテレビを見てるとおっさんが若いアイドルに『えー、あの授業やらなかったの!?』とか、何とか、グチグチ言ってたのを見たぞ! そんなの知るかってんだ! あぁ!? そもそもだ。そもそもだぞ。『最近の若い子は』とか何とか、何だって言うんだ! 最近も昔も未来も過去もジュラ期もあるかよ! 俺は俺の生きたいように生きるんだ! それを親だろうが、兄弟だろうが、親戚だろうが、あろうことか宅配業者のおっさんなんかに言われる筋合いなんか全くもって一切微塵もないだろうが!」
おっさんは唖然としている。
「分かったら早く出て行け!」
俺は怒鳴っておっさんを追い払った。塩は……面倒だからいいや。
「ふう。スッキリしたー」
そういえば、宅配便、なんだったんだ?
届けてきたダンボールを見る。そんなに大きくない。
「え……」
『大愛宅配』の文字。宛名は大愛 愛。
「これは一体、その、どうゆう、ことなんでしょうか」
誰もいないけど、言う。呟く。独り言だ。
「大愛が何を送ってきたのか、少し気になるな。見てみよう」
ダンボールを開ける。中には俗に万札と呼ばれる福沢諭吉さんが描かれた紙があった。そう、所詮は紙だ。それを目当てに死ぬ人だっている。悲しい現実だな。うん。まあ、仕方がないのだろうけど。
俺は部屋へダンボールごと福沢さんを持って行く。
「えっと、1まーい、2まーい、3まーい……」
怪談っぽく数える。自分でやって自分で怖くなった。
「えっと、200万だな」
前回と同じか。というか、どうして今日は手渡しじゃないんだ?
「ん?」
底に紙があった。白い紙だ。
『神林君は最近、ストレスが溜まってきているようだから、発散させてあげました。感謝しなさい』と書いてあった。
「つまり、さっきの、おっさんは、大愛の指図で来ていた、と?」
結局はいつものモニターかよ。
「はあ……」
俺は溜息を吐いた。吐くしかなかった。仕方なかった。
「今日は仕方ないことばっかりだったなぁ」
仕方ないけどな。
「まあ、確かに俺はスッキリしたから、いいか!」
結果オーライ、結構、結構。それが俺の生き方。そういうことにしておく。