俺、変わったな。
「今日もお前はいるんだな」
学校からの帰り道。いつも通りと化した大愛との下校。
別に嫌という訳ではない。でも、何かあったら、と思う。何もないけど。
「ねえ、神林君」
「なんだ?」
「質問、していい?」
「またモニターか?」
「そう思ってもらっていいわ」
ということはモニターではない部分も混ざるのか?
「なんで神林君は授業中に寝ているの?」
「授業中だからだろ」
その話は一番最初にしたと思うが……。
「じゃあ、夜、何しているの?」
「え、えっと、寝てる」
「じゃあ、昼も夜もずっと寝てることになるけど?」
絶対、こいつ知ってるぞ。今までもそんなパターンだったぞ。
「そ、そうさ、俺は、ずっと寝てるんだ」
わざとらしいなー。
「違うわね」
ほらー。絶対、知ってるー。
「21時からパソコン。3時までやってるわね」
はーい。そのとおりでーす!
「知ってただろ」
「某動画投稿サイトを見ているのね」
そこまで分かるのか。
「なあ、それって盗聴とか盗撮と同じようなことしてないか?」
「誤解しないで。あくまでもモニターよ」
「そうか!」
分かったぞ!
「ゴールデンウィークで、俺を連れて行ったのもモニターだったんだな!」
「そういうことにしておきましょう」
そういうことにしておかれた……。そういうことなんだろう。少し残念がる自分がいた。
「じゃあ、さようなら」
俺の家の前で大愛と別れた。毎回、俺の家まで来てくれる大愛は途轍もなく優しいんだろう。
「なんだか、俺、変わったな」
しかもいい方向に。
「ただいまー」
誰もいない家に挨拶をする。
家には家の神様がいるから、人がいなくても挨拶をするもんなんだぞ、と父さんに言われていた。
俺は偉いから挨拶をするんだ。自画自賛だった。
「今日はー、夜はー、何をー、食べよー、かなー」
冷蔵庫チェック。ジャガイモ、ニンジン、たまねぎ、その他諸々。
「カレーだな」
ルーもある。よし決定。
手際よくカレー完成。ホント、俺はいい主婦になると思う。
「うん。いつも通り美味い」
思いっきり自画自賛。だけど、美味いんだからいいじゃないか。
食べ終わったら適当に皿洗い。食事中に洗濯終了。洗濯物を干す。丁度干し終わった時、風呂が沸く。ここまでの手際のよさはもう経験だな。かなりいい主婦になるな。
風呂での考え事。大愛について。
大愛は優しいと思う。頭いいし、綺麗だ。
それなのに何故か俺をモニターしている。あれ? 俺がモニターしているんじゃなかったか?
「まあ、そんなことは置いておく」
生徒会長を務めている。それは尊敬出来る、と思う。俺は大して尊敬していない。だって、たかが生徒会長だから。されど生徒会長にはならない。
全国の生徒会長に問いたい。君たちは何の為に生徒会長になったんだ?
「どうせ内申というやつの為だろう」
俺は正直に「内申の為だ」と言ってほしい。そういうやつがいい。
「そういうやつは中々いない。でも、そういうやつは人間らしい」
羨ましい。俺も人間らしくありたい。例え今、俺が化物だったとしても俺は何をしてでも人間らしくありたい。下種で貪欲で愚鈍で馬鹿で間抜で阿呆で大袈裟で保身的で自己中心的で自分勝手なのが人間だとしても俺は人間らしくありたい。人間らしさというものを手に入れたい。
俺は人間だ。だが、人間らしいかどうかと言うと頷けない。この通り捻くれている。らしい。だが、それなりに友達はいるし、毎日が楽しくもある。
人間らしさというのは俺の勝手な独断と偏見で基準を設けているんだが、それに合格する人は大勢いる。合格しない人だって大勢いる。俺は後者だ。
「前者、そして善者になりたい」
上手いことを言ったとほくそ笑む。
「偽善者でもいいから善いことをしたい」
偽の善であろうが真の善であろうがその境界線というものはどこにあるんだろうか。
人間は偽善者と呼ばれるのを嫌がる傾向ある、と俺の思い込みかもしれないが、そう思う。
多分、それは間違ってはいない。嫌がって当然だ。誰だって偽物は嫌だろう。物真似をしている人だって本物の真似をする本物の偽物だ。皆、本物が好きなんだ。本物でありたいんだ。
「そして、自分は本物だと感じたいんだろう」
実証したいんだろう。確認したいんだろう。確めたいんだろう。認めたいんだろう。
だから、偽物を嫌う。とか何とか俺は中3の頭で考えてみた。結局何がしたいのか全然分からなかった。
「おっと、このままだと逆上せるな」
適当にシャンプーやらボディーソープやらリンスやら垢すりやら、適当に行った。その間10分。思いの外時間がかかってしまった。
「今日は疲れたからパソコンはやめとこう」
お利口な俺は最近のパソコンのやり過ぎを自分で指摘して、自分を諌めて、自分で我慢した。この上ないほどの自画自賛だ。
この後、ベッドでも色々と考えるのだが、それはまた次の話にしよう。