彼と魔女っ子の恋愛事情
「無いものは減らない」なのに無いものを減らす事に力を注いだら変な方向に行った。
屁理屈とかあまり得意じゃないので意味がわからないかもしれません、生暖かい目で見て欲しい
失敗感漂いますがこれも経験と言うことで晒す事に。
鞭打ちお願いします。
「無いものは減らない?いやいや、例えばだよ君。ちょっと良い難かったのだがね、つい先ほど君のために用意した、良いかい?君のために用意した自信作のプリンをだ」
私はたっぷり一息分溜めてから言った。
「なにやら探し物をしているらしいおじいちゃんにね、一度落ち着くようにとお茶請けに出してしまった。」
彼は顔を歪めて今にも泣きそうな顔になる、ぞくぞくするじゃないか。
「ああそんな顔しないでおくれ、悪かった、冗談だよ。おじいちゃんに出したのはシュークリームの試作で小さいプロフィトロールだ、今日はプリンは作ってない。私の分もあげるから、だから機嫌をなおしておくれ」
そそくさと立ち上がって台所にシュークリームを取りに行く、彼は私のお菓子をとても好んでくれる。嬉しい事だ。
「さてと、さっきの続きだけどね、無いものは減らないって奴だよ。君は今さっき無いものが減ったのを感じなかったかい?何をって私が作ったプリンというありもしないものがだよ」
ティーパックで入れた紅茶で口を湿らし、彼の意識がこちらに向くのを待つ。
「シュレディンガー、とはちょっと違うか。いいかい?君は私のお菓子を、その中でもとりわけプリンを好んでくれている。だから私が用意したと言った時にまだ実物を見ていないプリンを想像し、ここに用意したわけでは無いのにあるものと思い込んだ」
普段なら用意したと言いながら持ってくるだろう?と確認すると、3つめのシュークリームを頬張りながら頷く彼。ちゃんと聞いてはいるようだ。
「これでまず無いものがあるというおかしな状態だ、そこに私はそのプリンが実はもう無いと付け加える」
興味無さげに指についたクリームを舐める彼は、でもちゃんと話を聞いてくれている。
彼は聞くという事、見るという事、それらに敏感なのだ。
「ほら、過去に無くなったものがこの時また無くなった。君の主観では目に見えて無いものが減ったのだよ。そして私は無いと知っているものを減らして君に伝えた。これでこの場にいる全員、つまり君と私2人共が無いものが減る事を実感したのだ。なら他はさておき、この場においては無いものが減るというのはありえる事象じゃないかな?」
首をかしげる彼、やっぱり無理矢理すぎたかな。
私はのぼせた頭を冷やしていく、するととたんに恥ずかしくなってきた。
だってこれは前置きで、まだ本題に入ってないのだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
それが一体どうしたというのか、珍しくも興奮気味に語る彼女は頭を冷やすように温くなった紅茶を飲む。
それから彼女は覚悟を決めたように、若干赤くなった顔を隠しもせずに言った。
「だからね、目に見え無いものは減る事もあるのだよ。君に例えまったく、これっぽっちも、それこそミジンコの体重ほどもその気が無かったとしてもだよ?」
彼女は不自然に一呼吸入れて、自分を勇気付けるように小さく頷く。
「あまり私に見せつける様に他の女性と仲良く楽しげにするのは止めてくれたまえ、心が磨り減ってしまうよ」
あまりにも遠まわしの抗議だった、最後のほうは悔いるように尻すぼみになる。
目が潤んで泣きそうな顔、それでも彼女はきっと初めてなのであろう感情の名前をそのまま口に出す。
「わかっているよ、醜い嫉妬だ。もうちょっとは理性的なつもりだったのだがね、どうしても君には私だけを見て欲しくなる」
お菓子といえば魔女だろう、と冗談交じりに言いながらかぶっていた魔女帽子を目深にかぶりなおして顔を隠す。身体を包むマントと相俟って本物の魔女のようだ。
霞の様に消え去った御伽噺の魔女にしないため、僅かに見える頬を伝う涙の上からくちづける。これが慰めになれば良いけど。
「なっ、なななななにをいきなり!」
それは大きな効果があったようで、沈んだ彼女の顔が幾分いつも通りに近づいた。
落ち込んだら落ち込み続ける乃惟莉を引っ張りあげる魔法。
「わ、私はしないからいいがもし化粧品を塗りたくっていたらどうする!口に入れるなんて危ないかもしれないだろう!」
顔に使う化粧品なら口に入っても大丈夫だと思うけど、まあ乃惟莉にしかしないので乃惟莉が化粧しないなら問題無い。
「また君はそうやって……ちょっと顔を洗ってくるよ、目元を腫らしたまま君の前に居たくない」
たいして腫れてないけど、彼女は言うだけ言ってそそくさと部屋から立ち去る。
頬が赤かったから恥ずかしいというのもあったのかもしれない、お相子だけど。
火照りを冷ますために窓を開けると気持ち良い風が入り、下からは彼女とおじいさんの声が聞こえる。
「おじいちゃんまだ見つかってないの?永梨さんと南奉爺の筆って、遺品なら仏壇横の箪笥でしょ。軽いものだから上の方だね、私が取るよ」
おじいちゃんっ子であるところの彼女が戻るまでもう少しかかりそうだ、それまでにシュークリームがなくならないよう気を付けて待っていよう。
解説、これの為に一本書こうかなと思ってる自分が怖い、そんなことしたら本文よりあとがきの方が長くなりそう的な意味で。
乃惟莉 →
彼女、魔女コス。お菓子作りがたのしい。おじいちゃんっ子、将来の夢は「お菓子の家」を建てること
彼 →
喋れないのでA4ぐらいのホワイトボードとペンを常備して日常会話をこなす、速記が得意
ティーパック →
普通の学生がティーセットを持ってる筈が無い(偏見?)、ティーパックも悪くないさ
プロフィトロール →
一口サイズのシュークリーム、食べやすいけど油断したら手がクリームだらけになる
シュレディンガー →
猫がかわいそう、じゃなくて。
この話では箱は見ていない過去、猫はプリン、ガスはおじいちゃん、ラジウムは乃惟梨の言葉。
彼にとって乃惟梨が本当の事を言っている確立は5割であるとする、この時プリンが残っている確率は50%、残っていない確率も50%で、つまりこのプリンはあるけど無い事が正常な状態にある。
みたいな感じ、けどこれじゃあ「無いものがある」になってしまう
御伽噺の魔女 →
魔女っぽい死に方を考えたら出てきた創作、もしかしたらあるのかも知れないけど私は知らない
化粧品 →
江戸時代だとか最近だと昭和初期までは水銀や鉛を含んだ化粧品があり、口に含む以前に使う事で害があった。
最近の化粧品でもたまに副作用が見られるようなので成分表などを確認し、調べる事は大切。私は男なので今の所特にお世話になった事は無い
永梨と南奉 →
永梨が次女で南奉が三男、三卵生なのであまり似てない、故人。ひらがなに直して長男から頭文字を読むと「絶えない」となる、一人足りないとか言わないで
ふ、ふんっ、今回は話の中の繋がりを広げる為に書いたんだからね!勘違いしないでよ!
って言えば許してくれますか?