第1話 少佐を決して死なせはしません
私は泣いていた。
あの御方を私は、私が救えなかった。人を救えずして、私は、医者を名乗っていて、よろしいのでしょうか。宇宙に問いかけた。けれど、返事は、こない。
「おい!こっちの兵士も運べ!!ひどい傷だ。」
「A型の輸血パックがきれてるだと?すぐ補充しろ!」
「アルベルト軍曹が息をしていません!」
薄暗いテントの中でいくつもの言葉がぶつかり合う。看護師がものすごい速さでカートを運んでいる。我が国アルバスは大陸の南を支配しており、北側諸国との戦争で敗戦の一途をだどっており、負傷した兵士がここ最近増えている。
「スカーレット、君にヴァンチェ少佐の、銃で撃たれた右腕の切断を今すぐお願いしたい。この野戦病院の麻酔は尽きた。すまないが、麻酔なしで頼む。優秀な君なら最小限の痛みで切断出来るだろう。よろしく頼むよ。」
ここの医師、看護師の指揮を執っているキルリスさんが言った。
「了解しました。」
ベッドまで向かうとそこには、右腕を包帯でぐるぐる巻きにして、苦痛の表情を浮かべる少佐がいた。
「やあ、お人形のような人がほぼ戦争の最前線にいるなんてね。」
少佐は到底笑顔には見えない、苦しみと痛みを2対1で混ぜたような、無理な笑顔をして、私に微笑んだ。
「それが、私の使命ですので。」
「お堅いな〜」
少佐は無理な笑顔をしたまま言った。
「申し訳ありませんが、麻酔なしでの切断となります。では、今現在から開始いたします。」
包帯を取ると痛々しい腕が見えた。その腕をエタノールを染み込ませた脱脂綿で消毒し、ペンを走らせた。そして、糸で上腕を縛った。
「いてっ」
少佐が痛みで跳ね上がった。
「もうちょっと優しくできないの?」
笑顔がさらに歪になっていた。
「止血があまいと、切断する際に出血が止まらず、血液が不足します。そして、今、当院の輸血パックは不足しておりますので、失血死の恐れがありますが、よろしいですか?」
少佐が一つほうっとため息をついて、
「わかったよ。」
「それは、止血をきつく行う。という方針に納得した。という、わかったでよろしいでしょうか?」
「そうですっ、いてでで、ちょっ、ちょっと、ちょ、っまって、まって!」
引っ張っていた糸を緩めてから
「何か不都合がございましたか?」
「いや、なんでも、、」
少佐がゼェゼェと息を吐きながら言う。
「それでは、施術を再開します。」
再び糸を締め、結ぶ。
「いっっつ!」
ペンでマーキングした箇所にメスを切り込ませる。
「案外痛くないもんだな、刃物が滑っていくよ。」
少佐はメスによる切断の痛みがあまりないせいか、少し元気な口調で言う。
「少佐、施術中はあまり喋らないほうがよろしいかと。」
「ああ、すまないね。」
皮膚、筋肉、血管を切断し、主要な血管を縛り、結紮した。神経を引き出し切断、周囲の組織に埋め込んだ。骨を骨鋸で断ち、削り、筋肉を縫い、皮膚を縫い、施術が終わった。
「少佐、以上で施術を終えます。お疲れさまでございました。」
「もうか、早いね。」
少佐はシンとした眼で自分の右側を見ている。今はもうない、右腕が生えていたであろう場所を。
「義手の装着は、街の病院でお願いします。」
「わかった。ありがとう。」
そう少佐は、初めて本当の笑顔を見せてくれた。




