第二十七話 四対一
二つの殺意が薄暗い体育館の中央で激突した直後。先に動いたのは深田はじめだった。
彼は余裕の笑みを口元に張り付けたまま、右手に持った手帳サイズの革装丁の本をバサリと開いた。
開かれたページの中から、まるで大量の生血のような『赤黒い液体』がドクドクと湧き出し、重力を無視して宙へと溢れ出した。
深田が楽しげに指先を振るうと、宙に浮かんだ赤い液体が一瞬にして硬質化し、鋭利な刃を持つ『数本の槍』へと形を変えた。
ヒュンッ! という空気を切り裂く恐ろしい風切り音と共に、赤い槍の群れが凪の全身を貫こうと猛スピードで殺到する。
「……ッ!!」
凪は一切の恐怖を感じていなかった。死んだ親友の復讐を果たすという、殺意だけが彼の肉体を支配している。
胸元で赤黒く禍々しい光を放つペンダントを握りしめ、凪は迫り来る槍に向かって真っ向から右腕を突き出した。
『暴風』
ドゴオオオオンッ!!
凪の掌から、不可視の巨大な砲弾のような圧倒的な突風が放たれた。
暴風は水浸しの床を大きく抉りながら一直線に進み、殺到してきた赤い槍をまとめて粉砕し、四方八方へと弾き飛ばす。さらにその余波は深田へと直撃し、彼の身体を水しぶきと共に十メートル近く後方へと吹き飛ばした。
「おっと……」
触手が、クッションのように後方から深田を支えると、水面を滑るようにして体勢を立て直し、革靴でザァァッとブレーキをかけた。ダメージを受けた様子はない。それどころか、彼の顔にはいっそう深い歓喜の笑みが浮かんでいた。
「すごいね、人が扱う魔術としては桁違いの出力だ。そのペンダントに何か細工があるのかな?……でも、少し直情的すぎないかな?」
「……!?」
凪が次の行動に移ろうとした瞬間、背後に強烈な殺気を感じた。
暴風によって粉砕され、四方八方へと弾き飛ばされたはずの赤い槍。それが宙で空気に触れた途端、まるで細胞分裂を起こすように何十本もの微細な槍へと増殖し、ブーメランのように軌道を変えて凪の背中へと一斉に降り注いできたのだ。
凪は舌打ちをし、水に浸かった足に力を込めて、体育館の床を猛然と駆け出した。
鈍い音が背後で連続して響く。凪がコンマ一秒前にいた空間を次々と赤い槍が貫き、床に突き刺さった端から、パシャリと元の気味の悪い赤い液体に戻って水たまりに混ざっていく。ペンダントの力により、凪の運動能力は一年間の入院生活を送っていたのに関わらず、人の域を逸脱しつつある程向上していた。
息つく暇もない猛攻を回避した凪が床を滑るように着地すると、十メートルほど離れた場所に立つ深田はじめは、右手に持った革装丁の本を開いたまま、ひどく楽しげに目を細めていた。
「やるね…でも逃げ回っているだけじゃ、僕には傷一つつけられないよ」
深田は余裕を含んだ声でそう告げると、本を開いたままの右手を軽く掲げ、口元で何かの呪文のような言葉を短く紡いだ。
直後、凪の足元を満たしていた広大な水たまりが、一斉に重力を失ったようにうねりを上げた。
水面が突如として巨大な壁のように隆起し、四方八方から凪の身体に向かって雪崩れ込んでくる。それは先ほど良平が使った、ただ水をぶつけるだけの魔術とは次元が違った。圧倒的な質量と密度を持った巨大な『水の牢獄』が、逃げ場を塞ぐように凪を完全に飲み込んだのだ。
「……っ」
一瞬にして視界が青暗い水に覆われ、強烈な水圧が全身の骨を軋ませる。
息を吸うことすら許されない高密度の水の塊の中で、凪の身体は完全に宙に浮いた状態で拘束された。肺が握り潰されるような圧迫感。良平の魔術よりも格段に緻密で、逃れようのない死の檻だった。
「水の中で大人しく窒息してくれたら、綺麗な死体が残るんだけどね」
深田のぐぐもった声が水越しに聞こえてくる。
だが、凪の瞳に焦りはない。ただ冷酷に、獲物を狩るための最短の計算だけが脳内を駆け巡っていた。
窒息の苦痛すらも、親友を失った絶望の炎に焼かれている今の凪にとっては、ただの些末な刺激でしかない。
凪は水の中で目をカッと見開き、胸元で禍々しい赤黒い光を放ち続けるペンダントに、ありったけの魔力を注ぎ込んだ。
『浮遊』
凪の両足の周囲に、鋭く圧縮された竜巻のような風が巻き付いた。水の中で発生した暴風の渦が、強烈な推進力となって凪の身体を上へと押し上げる。
足に纏わせた風を爆発させるようにして、凪は巨大な水の塊の天井を突き破り、そのまま体育館の薄暗い空中へと高く舞い上がった。
頭上から降り注ぐ大量の水の飛沫が、体育館の薄暗い空間を分厚い白いカーテンのように遮った。
巨大な水柱が空中で木端微塵に粉砕されたことによる、局地的な豪雨。
それによって完全に視界を奪われ、深田はじめの顔にべったりと張り付いていた余裕の笑みが、この戦闘において初めて、ほんの僅かに歪む。
そのコンマ数秒の隙。深田の視界の死角となった上空の雨雲の中から、凪は両足に纏わせた暴風の推進力を爆発させ、自らを一発の砲弾と化して猛然と急降下した。
風を切り裂き、音すらも置き去りにする圧倒的な速度。
分厚い水煙を突き破り、深田の目の前に無音で着地した凪は、そのまま一切の躊躇も予備動作もなく、相手の無防備な懐へと深く、鋭く潜り込んだ。
驚愕に見開かれた深田の眼が、凪の漆黒の殺意を宿した真っ暗な瞳と、至近距離で交差する。
「…………」
言葉はなかった。呪詛すらも吐く気になれなかった。
凪は完全な無言のまま、渾身の憎悪を込めた右拳を、深田の腹部へと深々と突き入れた。
それは単なる物理的な打撃ではない。極限まで圧縮された赤黒い暴風の魔力が、凪の拳を伝って深田の肉体へと直接、容赦なく叩き込まれたのだ。
――メキィィッ!!
肉が潰れ、骨がひしゃげる重く鈍い衝撃音と共に、深田の身体がくの字に激しく折れ曲がる。
次の瞬間、凪の拳から爆発的な風のエネルギーが全方位に向けて解放され、深田の肉体は不可視の巨大なハンマーで殴り飛ばされたように、後方へと一直線に吹き飛んだ。
凄まじい速度で宙を舞った深田は、そのまま背後の体育館の分厚いコンクリート壁に激突する。
しかし、赤黒い暴風の勢いは全く止まらなかった。
ドゴオオオオンッ!!!
腹部に受けた衝撃そのままに、深田の身体はコンクリートの壁を粉砕し、太い鉄骨をへし折りながら、外界のグラウンドへとそのまま一直線に貫通して弾き飛ばされていった。
大量の瓦礫が崩れ落ちる轟音が、重い沈黙に包まれていた体育館に木霊する。
すると、視界を遮るほどの異常な濃霧が、まるで主を失ったかのようにスーッと薄れ、静かに晴れゆくグラウンドの景色が広がっていた。
良平。彼という魔力の供給源であり、この濃霧を維持するための「核」の一つでもあった存在が完全に消滅したこと、魔術も自然に消えていったのだ。
「……う、ん……」
その鼓膜を破るような壁の崩壊音と、大穴から一気に流れ込んできた冷たい外気によって。
体育館の隅で折り重なるように倒れていた翼と結衣が、微かに呻き声を上げて身じろぎした。
彼らは、この学校に充満していた魔術的な濃霧を直接吸い込みすぎたせいで、強制的に意識を刈り取られていた。
「ここは……私たち、どうして……」
結衣が重い瞼をこすりながらゆっくりと身を起こし、隣で翼も痛む頭を片手で押さえて立ち上がろうとする。
混濁する意識の中で、二人の視界に真っ先に飛び込んできたのは、無惨に崩壊した体育館の壁と、霧が晴れゆく巨大な穴の前に立つ、一人の少年の背中だった。
「……凪、くん?」
翼が目を瞬かせ、信じられないものを見るように声を漏らす。
そこに立っていた凪の背中からは、赤黒く、ひどく禍々しい殺気が、まるで陽炎のように立ち昇っていた。
制服は破れ、全身は泥と水で汚れきっている。しかし何より翼を戦慄させたのは、凪がゆっくりとこちらを振り返った時の、その『表情』だった。
「凪くん……その顔の怪我と、汚れは……。それに、一体何が起きたんですか?」
翼が驚愕に目を見開いて問いかける。
かつての温かさや、等身大の高校生としての感情を完全に失った、凍りつくような冷たい瞳。
右半身にべったりとこびりついているのは、間違いなく大量の『返り血』と肉片だ。
二人はそのあまりの異様な変貌と、全身から発せられる異常な殺気に息を呑んだが。
凪は、感情の完全に抜け落ちた平坦な声で、ただ短く告げた。
「……翼さん、結衣さん。外に、敵がいます」
自分が良平を救えなかったことも。
大好きな親友が、自分の目の前で化け物に成り果て、破裂して消え去ったことも。
説明する気力すら、今の凪には一ミリも残っていなかった。
凪はそれだけを言い残すと、崩れた瓦礫を無造作に踏み越えて、霧の晴れゆくグラウンドへとゆっくりと歩みを進める。
「待って、凪くん! 一人で行っちゃダメだ!」
翼と結衣は互いに青ざめた顔を見合わせ、事態の異常さと、凪が纏う危うすぎる魔力の波動を肌で感じ取りながら、慌てて凪の背中を追って大穴の外へと飛び出した。
グラウンドの中央付近。
体育館の壁を貫通して吹き飛ばされた深田はじめは、制服についた土埃を軽く手で払いながら、ゆっくりと身を起こしていた。
口の端からは一筋の赤い血がツーッと流れていたが、その顔には苦痛どころか、狂気じみた歓喜の笑みがべったりと張り付いている。
「いやぁ、本当に驚いたよ。極限の憎悪が魔力の出力をここまで引き上げるなんて……」
深田が楽しげに唇の血を手の甲で拭うが、凪は一切の言葉を返さない。
ただ、右手に渦巻く赤黒い魔力をさらに圧縮させながら、静かに、そして確実に深田の首をへし折るための間合いを詰めようと、無言のまま歩みを進める。
「でも、これ以上君のサンドバッグになってあげる義理はないからね。少し、手駒を増やさせてもらおうか」
深田はそう言うと、右手の指を高く掲げ、パチンと乾いた音を立てて指を鳴らした。
直後、彼らの頭上――校舎の二階部分の窓ガラスが、内側から勢いよく吹き飛んだ。
ガシャアアァンッ!
鋭いガラス片が雨のようにグラウンドへ降り注ぐ中、二つの巨大な影が三階から直接跳躍し、深田の左右に重々しい地響きを立てて着地を決めた。
「なっ……あれは!」
凪の背後まで追いついた結衣が、その姿を見て絶望に息を呑む。
土煙の中から姿を現したのは、人間よりも二回り以上巨大な、ぬめりを帯びた青緑色の鱗を持つ異形の怪物。
六丁目の路地裏や河川敷で天下崎たちが交戦した『深きもの』だった。
だが、不気味なのはその姿だけではない。
その怪物たちが、不自然にも人間の衣服を身に纏っていたのだ。一体は夢見ヶ原高校の緑色の体育ジャージをはち切れんばかりに着込み、もう一体はひどく汚れたビジネススーツを無理やり着崩している。
この学校の体育教師や関係者が変異の末に成り果てた姿なのか、あるいは最初から人間社会に擬態して紛れ込んでいた者たちなのか。
「これで三対三だ」
深田の声に呼応し、二体の深きものがエラの裂けた喉から、ゴボゴボという威嚇の唸り声を上げる。
そして深田自身も、右手に持った革装丁の本を再びバサリと開いた。
紫色の禍々しい光と共に、ページの中から大量の赤い液体がドクドクと溢れ出し、空中で一瞬にして硬質化して二本の鋭利な『赤い槍』へと姿を変える。
「君は中々手強いからね。まずは、そこの二人から退場してもらおうか」
深田が視線を冷酷に動かした瞬間。
空中に浮かぶ二本の槍が、最も脅威である凪ではなく、背後に立つ翼と結衣に向かって凄まじい速度で射出された。
「……っ、翼さん、結衣さんッ!」
凪が咄嗟に振り返る。
しかし、先ほどまで霧の魔術で意識を奪われていた二人の身体は、鉛のように重く硬直しており、迫り来る致死の速度に反応しきれない。
翼と結衣の瞳に、命を刈り取る赤い切っ先が絶望的に拡大していく。
だが、その死の瞬間が訪れるよりも、わずかに早く。
「――間に、合ったか……ッ!」
グラウンドの端から、野太くも切羽詰まった声が轟いた。
同時に、凪たち三人と、迫り来る赤い槍との間の地面――その土の影が突然泥のように黒く濁り、そこから巨大で悍ましい『不浄の触手』が、天を衝くように勢いよく飛び出した。
黒紫色のぬめりを帯びたその触手は、まるで強靭な鋼の鞭のように空中で激しくしなり、翼たちを串刺しにしようと迫っていた二本の赤い槍を、側面から力任せに横殴りに弾き飛ばした。
ガキィィィィンッ!!
硬質な激突音を響かせ、強引に軌道を捻じ曲げられた赤い槍は、そのまま恐るべき速度でブーメランのように跳ね返り――。
唸り声を上げて、まさに跳躍の姿勢に入っていた二体の深きものへと、真っ直ぐに向かっていった。
「グ、ギャ……?」
ジャージ姿とスーツ姿の怪物が反応する間もなかった。
ズチャッ! という生々しい破砕音。
跳ね返った二本の赤い槍は、狂いのない精度で二体の深きものたちの脳天を深々と貫き、その巨体をグラウンドの土の上へと無惨に縫い付けた。
二体の怪物は痙攣すら起こさず即死し、頭の傷口から体液を吹き出しながら、シュウシュウと白煙を上げて瞬く間にドロドロの液体となって溶け落ちていく。
「……あっ……」
死の淵から生還し、へなへなとその場にへたり込んだ結衣の視線の先。
土煙が晴れゆくグラウンドの入り口付近から、肩で大きく息をする大柄な人影が姿を現した。
くたびれたトレンチコートに、鋭い目つきの男。
――天下崎だった。
「はぁっ、はぁっ……。ギリギリだったな」
天下崎はひどく青ざめた顔で額からダラダラと冷や汗を流し、強烈な寒気と恐怖に身体を小刻みに震わせながら、口元を歪めて笑った。
「天下崎さん……! 来てくれたんですね、ご無事でよかった……!」
翼が心の底からの安堵の声を上げると、天下崎は懐から煙草を取り出そうとするも、手が激しく震えて上手く掴めず、舌打ちをしてポケットから手を引いた。
「悪い、到着はしてたんだが……さっきまで中が全く見えねぇほどヤバい濃霧に包まれてたからな。一瞬、二人組の男が何かを重そうに運んでいたから追いかけようと思ったんだが、あんな得体の知れないもんの中に一人で突っ込むのは流石に自殺行為だと思って、向かってる方向に外周から少しずつ探索を広げてたんだ」
「恐らく、運ばれていたのは翼さんと結衣さんでしょう……この学校の霧を蔓延っていた濃霧は、対象者を眠らせるものだったので」
天下崎は、雰囲気の変わった凪を見て、少し唖然とするも、すぐに冷静な顔つきになり、体育館の壁の巨大な大穴を顎でしゃくった。
「……そうしたら、中からとんでもねぇ爆音と一緒に、壁をぶち破って人が飛んできやがったからな。突然霧も晴れてきたし、駆けつけてみれば、案の定、お前らがピンチってわけだ」
「天下崎さん、あの濃霧の近くにいたのに無事だったのね……。外にいたから、霧の効力が薄まっていたのかしら?」
結衣が安堵と疑問の入り混じった声をかけるが、天下崎はそれに答える余裕すらほとんどなかった。
自身の切り札である『不浄の触手』は、強力な代償として術者に名状しがたい絶対的な恐怖と悪寒をもたらす。
先ほどデパート跡地の地下で精神を犯されかけたダメージも重なり、天下崎は全身から脂汗を流しながら、前に立つ凪たち三人の背中越しに深田を睨みつけた。
「……ハァッ、御託は後だ。今は、あの野郎に集中しろッ」
天下崎が絞り出すように鋭く警告を発する。
一方、二体の手駒を瞬きする間に失った深田はじめは、溶けていく怪物の体液をちらりと見下ろし、それから天下崎へと興味深そうな視線を向けた。
「へぇ……驚いたな。まさか……もしかして君が――」
深田はわずかな感心を浮かべると、開いていた革装丁の本をパタン、と軽く閉じた。
「少し、状況が変わったね。君たち四人を同時に相手にするのは、少々魔力の消耗が激しくなりそうだ。今の僕の目的からも外れるしね」
深田は両手を軽く広げ、まるで教師が手のかかる生徒を諭すような、ひどく思い上がった態度で提案した。
「――ここで引くなら、君たちの命だけは助けてあげようか。これ以上僕たちの計画の邪魔をしないと約束するなら、大人しく帰してあげるよ」
あまりにも身勝手で、人の命を舐め腐ったその言葉。
凪から返ってきた答えは、迷うことなき、絶対的な拒絶だった。
「…………ふざけるな」
地を這うような、感情の抜け落ちた低い声。
凪にとって、自分の命などとうにどうでもいい。ただ、良平を奪ったこの男を殺す。その漆黒の意志だけが、彼の肉体を前へと突き動かしている。
「あの怪物たちと関係している以上、絶対にあなたを逃がす訳にはいきません」
「そっちこそ、今すぐ土下座するなら、半殺しくらいで済ませてあげなくもないわよ」
翼と結衣も、凪の両サイドに並び立つようにして構えを取る。
彼女たちの瞳にも、理不尽な悪意に立ち向かう強い決意が宿っていた。
三人の魔術使いたちが、強大な敵を前にしても一歩も引かず、戦う意志を見せつける。
だが――その後方で彼らを援護するはずの天下崎だけは。
一歩、無意識のうちに後ずさりをしてしまっていた。
(……なんだ、こいつは……?)
天下崎の目には、深田はじめという存在が、ただの人間、もしくは深きものに関係した何かには到底思えなかった。
彼の内側から底なしに漏れ出ている『異様で冒涜的な気配』。それだけでは説明のつかないような、違和感。
既視感とも違う、人間の矮小な精神を根底からへし折るような何かを、天下崎は目の前の男から確かに感じ取っていたのだ。
一方、迷うことなき三人の拒絶を聞いて、深田はじめは心底呆れたように、やれやれと大袈裟に肩をすくめた。
「本当に、君たち人間っていうのは度し難いな。我々のように大義もなければ、命を懸けるような信奉や信じる何かがある訳でもないのに、なぜそこまで自分の命を無駄に散らそうとする。まさか、四人で戦えば勝てるという何の根拠もない自信を、本気で思ってるんじゃないだろうね?……まあ、いいよ。交渉は決裂だ」
深田がそう言って、薄く冷たい笑みを深めた。
「いいよ。そこまで僕の邪魔をしたいなら……君たち全員に、極上の絶望をプレゼントしてあげる」
深田の瞳の奥に、人間のものではない、爬虫類のような冷酷な光が宿る。
凪の放つ漆黒の殺意と、深田の纏う底知れぬ狂気。
霧が完全に晴れた夢見ヶ原高校のグラウンドで。
四対一の決死の総力戦が、今まさに火蓋を切ろうとしていた。
【血の魔術】
魔力で覆った血液を自在に操ることができる。
血で構成された不定形の鋭い槍や触手などを造る事が可能。
魔術の行使には、使用者の血液が不可欠になるが、同意がある、または使用者の管理下にある者或いは血液であれば、その血液を代用する事で行使が可能である。




