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箱庭の百合  作者: Kibana
黄昏時に夢をみる
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第十三.五話 魔力について

「……門屋さんとおっしゃいましたね。あなたは先ほど、『魔術』と言ってましたが……あなたも、魔術を使えるんですか?」


 深夜の街を滑るように走る、黒い覆面パトカーの車内。

 後部座席からの翼の真っ直ぐな問いに対し、ハンドルを握る門屋は、わずかに口角を上げただけで冷たく言い放った。


「買い被りすぎですよ。その存在を知っているのと、実際に使えるのとでは、全く訳が違いますからね」


 ルームミラー越しに冷徹な視線を交わし、門屋はさらに、事務的なトーンで言葉を継いだ。


「……それを扱うエネルギーを、『魔力』と呼ぶのですが。そもそも、魔力というものは、すべての人間が等しく、微弱ながらも体内に持っているものです。ですが、稀に特殊な『道具』に強く宿る場合がある。基本的に、人間が自らの意思で魔力をエネルギーとして引き出し、扱うなんて事はできません。そして、そもそも自分や他人の『魔力』という不可視の力を、明確に知覚し、感じ取れる人間など存在しないんですよ」


 その言葉を聞いて、翼は自身の胸元に忍ばせた虹色のペンダントに意識を向けた。


(……確かに、この人の言う通りだ)


 翼は内心で深く納得していた。自分が魔術を発動させる時も、常に力がみなぎっているわけではない。『この石を使って結界を張る』と脳が明確に判断し、強く念じた時にしか、ペンダントからのエネルギーを身体は感じ取っていないのだ。

 実際にあの青白い壁の結界を展開した瞬間でさえ、胸の奥でぼんやりとした熱のような力を感じた程度だった。魔力というものは、それほどまでに曖昧で掴みどころのないものなのだ。

「一方で」と、門屋は淡々と語り続ける。


「先ほどあなた方を襲った『深きもの』たちは、特殊な進化を遂げており、人間よりも遥かに内包する魔力量が多い」


 あの化け物たちの異常な膂力と生命力を思い出し、後部座席で百合を抱きしめる結衣が小さく身を震わせる。


「しかし、安心して欲しいのは……魔力が多いからと言って、彼らがホイホイと魔術を扱える訳ではないということです。魔術を行使する機能と、魔力量は別物ですからね。それに、我々のように魔力という概念を知っているからと言って、魔力そのものを知覚する事は、彼らにもできないんです」


「……おい」


 助手席に座る天下崎が、鋭い猛禽のような眼光で門屋の横顔を睨みつけた。


「そんなオカルトじみた話をどうしてお前が知っている?」


 この街の暗部を調べ尽くしたような口ぶり。警察という組織の枠を明らかに超えた異常な知識量。

 天下崎の殺気を孕んだ追及に対し、門屋は一切動じることなく、前を見据えたまま短く答えた。


「ノーコメントで」


「てめぇ……」


「私が言いたいのは、それほど魔術を扱える存在は、『この世界』では珍しいという事です」


 門屋は言葉を切り、ルームミラー越しに、今度は明確な『不敵な笑み』を浮かべてみせた。


「勿論、皆さんが持っているような『便利な道具』があれば話は別ですがね。……その石をどうやって手に入れたかは聞きませんよ。それに、大方の予想は着いていますから」


 すべてを見透かしたようなその物言いに、翼はハッとして身を乗り出した。


「……あんた、『六丁目の占い師』のことを知っているのか?」


 自分たちにこの魔術のペンダントを授けた、あの路地裏の不気味な老婆。彼女の存在まで、この男は把握しているというのか。

 翼の問いに、門屋は心底面白そうな、しかし氷のように冷たい声で答えた。


「ああ……今は、そんな名前を呼ばせているんですね」


 その言葉の裏に隠された底知れぬ闇の深さに、車内には再び、重く冷たい沈黙が降りたのだった。

描写不足を感じたため、内容を補足したものを投稿いたしました。

既にお読みいただいた方には二度手間となってしまい申し訳ありません…。

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