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チーズ姫と凸凹従者 ~街道爆走道中記~  作者: 熊猫太郎
第二章:悲劇のブレーメン、DIYの罠
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第7話:修理

「……い、急ごう。ビギーが……待ってる」


『待っていろよ、ビギーッ! 俺が今、特効薬を持って帰ってやるからなッ! 貴様のその、情けないガタつきを、この俺が……この手で直してやるッ! 愛してるぜ相棒ッ!』


僕は、Clockが運転する自動運転EVの後部座席に飛び乗った!!急げ!!


※なお、この車両は公道走行の許可をパパの権力で強引に通しているが、実質的には道路交通法違反(自動運転レベル不適合)の極致である。三河の闇は深い。


自宅のガレージに戻ると、ビギーが弱々しくライトを明滅させた。


「マスター! おかえり! 部品は持ってきた? 早くボクをアメリカン・タフガイに戻してね!!ブォォォォン!!」



「……う、うん。……よし。やるぞ!!」



僕は、Clockに確認を取りながら、カゴから一本のボルトを取り出した。Clockは冷静に告げる。


「材質、粘度、強度。ビギーのハルシネーション……いえ、自己診断データに基づいた規格通り、……米国規格、インチネジ。間違いないはずでございます」


しかし、ここが運命の分かれ道だった…


ビギーは、パパが海外のオークションで競り落とした「外見だけ米国製」の、実は三河の町工場で作られた特注モデルだったのである。


つまり、内部規格はミリ単位の「メートルネジ」…!


「……えいっ!」


『喰らえッ! これが自由への(くさび)だッ! ビギーの魂と結合しろッ!』


「あれ?…かっ…硬いよ!?なんでぇ?!……もう一度、えいっ!」


僕は、ビギーの脚部の穴に、力任せにインチネジを突っ込んだ。だが、規格が違う。噛み合わない。普段ならば、ここで止めただろう。しかし、今の僕は「自立」への焦りと、ビギーへの愛で盲目になっていた。


「坊ちゃま、こちらを。電動インパクトレンチでございます。工業製品の締め付けトルクは得てして屈強な男性基準で設計されておりますゆえ」


「そうなんだ!?よし、じゃあ、これで…出力は最大…いいぞ、いけッ!!」


ガリッ、メキメキッ……!



「……あっ」



無理やりねじ込まれた硬質のボルトが、ビギー側の柔らかいアルミ合金のネジ山を、無残にも削り取る!いわゆる「ネジ穴をナメる」という、DIY初心者が必ず通る、そして最も絶望的な処刑の儀式である…!!


「アギャァァァーッ! 痛い! 痛いよマスター! ボクのネジ穴がぁーッ! 内部構造がバカになっちゃうぅーッ!ブォォォォン!!」


悲鳴を上げるビギー。脚から火花が散る!!


「……あわ、あわわ……え?痛い?……痛いの?なんでぇ?!ど、どうしよう、Clock! 止まらないんだ、ネジが空回りして……!」


「合理的判断を下します。……手遅れ(ジ・エンド)でございます」


――スチャッ。


「ネジ山が完全に消失。もはや私の論理回路では、この物理的崩壊(やらかし)を修復することは不可能でございます」


「……お、終わりだ……。僕が、僕の手で、ビギーを……殺した…のか…」


絶望し、ガレージの床に膝をつく。その時、Clockが先ほどとくさんから渡された名刺をスキャンした。


「坊ちゃま。先程のカーボンユニットに連絡を。彼ならこのアナログな破壊を修復できる可能性がございます」


「……で、でも、電話なんて……あ……その……って、なっちゃうし……」


「表は電話番号のみですが、坊ちゃま、裏面をご確認くださいませ」


Clockが名刺を裏返すと、そこにはガサツな表のデザインからは想像もつかない、最新の配置でQRコードが並んでおり、Facebook以外の、主要なSNSアカウントが網羅されている。


「……SNS、……これなら、いけるかも……!!」


『あのオヤジ……! 時代遅れのトラックに乗っていながら、デジタルネイティブの懐に潜り込む準備は万全だと言うのかッ! おのれッ、三河の職人の底力、見せてもらうぞッ!!』


僕は震える指でスマホを取り出し、とくさんのSNSアカウントにダイレクトメッセージを打ち込んだ。


「明日、ビギーの、修理をお願いしたいです」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「…今日はどうしたの?一人で庭にいるなんて。…まだ、元気がないみたいだけど大丈夫?」


「あ…美香子ちゃん… 今日、じ…自分で初めて…お買い物に行ったんだ…」


「…自分で?やるじゃない!?どこへ行ったの?」


「ほ…宝多館ってお店。…怖いおじさんたちが沢山いるんだよ…でも、ちゃんと自分で買えたから…」


「あのDIYショップよね?頑張ったわね。うん。自立の道、応援してるよ!」


「へへ…いつも、応援ありがとう、美香子ちゃん…」


また褒められたぞ!よーし、これからも頑張ろう!ビギーのことが心配だけど…


心優しい幼馴染と別れ、ゆっくりと玄関に向かっていく。そして僕は、帰宅後の静まり返った自室で、スマホを手に取った。


――――――――――――――――――――――――――――――


写真:レジ外で座って待つ僕と写る、名前と番号を隠したセンチュリーブラックカードを持つClock


DIYショップ、はじめて来ました!初めてのお買い物です。これぞプロって感じの、大人の世界です!


#DIY #初めてのお買い物


――――――――――――――――――――――――――――――


名無しさん:


あのお店、初めてだと緊張しない?プロの男性!ってお客さん多いよねw


通りすがり:


見たこと無いカードだね?黒くてかっこいい!もうプロの仲間入りだね!?


――――――――――――――――――――――――――――――

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