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チーズ姫と凸凹従者 ~街道爆走道中記~  作者: 熊猫太郎
第一章:三河の聖域、純粋培養の世界
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第4話:逮捕

『……く、食った……。腹が、はち切れそうだッ!…この満足感……! パパの用意したデトックス・ランチとは比較にならんッ! 胃壁に直接、豚の脂と濃いめのソースが叩き込まれるこの感覚!これこそが、労働者の……自由の味かッ! 幸せすぎるッ!』


僕が顔を上気させ、パンパンになった腹を抱えて店を出ると、そこには対照的な「足」が二つ待っていた。


一台は、漆黒の光沢を放つ最新のEV(電気自動車)。Clockは『無人自動召喚機能(スマート・サモン)』を起動し、ミリ単位の精度で店の入り口に横付けさせ、慣れた手つきで後部座席のドアを開け、深く腰を折る。


「では、坊ちゃま。お帰りはこちらへ。車内は24.5度に保たれ、お好みの音楽と、食後の血糖値上昇を抑えるハーブティーを用意してございます。……公道走行不可の『鉄屑』など、もう必要ございませんな」


一方、そのEVの横で、錆びた電柱に繋がれたビギーが、必死に足で踏み鳴らしてアスファルトを掻いていた。


「マスター! ボク、まだ走れるよ! 帰りは時速120キロまで出すから! ブォォォン! カタカタ! やだよぉ、捨てないでぇーッ!」


白煙を吐き、過熱したオイルの臭いを撒き散らすビギー。ClockはARメガネを直し、冷徹に問いかける。


「合理的判断を。未来か、あるいは……過去か」


僕は、煤けたビギーの無骨な金属の質感をじっと見つめた。


『未来だとォッ!? Clock、貴様は何も分かっていないッ! 未来とはッ! 誰かに用意された完璧なシートに座ることじゃあないッ! この……この、俺のために必死に吠えているポンコツと一緒に、泥を跳ね上げて進むことなんだよッ!』


「……こ、こっちがいい。…ビギーは、…かわいい…から…」


「……左様でございますか」


「……うっ」


Clockの無表情なセンサーが、一瞬だけ明滅した。


店から出てきたオッサン客たちが、ビギーの排気ガスを浴びながら笑う。


「ガハハ! 兄ちゃん、分かってんじゃねぇか! やっぱ男は、この熱いエンジンがなきゃダメだよなぁ!」


「そりゃあ振動もねぇと、動かしてる実感がねぇわな!」


その中の一人、とくさんは、去り際のClockの指先が、わずかに、しかし激しく「震えている」のを見逃さなかった!


「……ケッ。電動モデルのくせに、中身は案外アツいもん持ってんじゃねぇか」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



だが、自由の代償はすぐにやってきたのだった――


爆音を上げるビギーと、その後ろを威圧的に自動追従するヒューマノイド搭載の超高級EV。三河の公道で目立たないはずもなく。


「……おい、止まれ! 道路交通法違反、整備不良、および……何だこの歩く排気ガス製造機は!」


尾木川(おぎがわ)巡査長と吉田(よしだ)巡査に挟まれ、僕たち一行はピースキャッスル警察署へと連行された。しかし、その取り調べは10分も経たずに「上」からの圧力により一瞬で終了することとなる。


「バカモン!今すぐ釈放しろ!市民団体から直接の抗議が入った!…尾木川巡査長、今は警官が制服で割引弁当を買っていると通報される時代だぞ!コンプライアンスの徹底が最優先だ。覚えておけ!!」


署長の怒号が取調室に響く――


署の駐車場。夕暮れの中、解放された僕たちの後ろ姿を、尾木川は俯きながらも、拳を握りしめて見送った。


「……クソッ…これが『闇』か。俺の…俺たちの正義など、巨大資本の前では紙クズ同然なのか……!?」


「先輩……」


吉田が、尾木川の肩にそっと手を置く。


「俺が、何があっても…先輩を守りますから……だから先輩、先輩はそのままでいいんです…そのままでいて下さい…」


「吉田……」


二人の視線が重なり合った瞬間、周囲の風景が歪む。二人を取り囲むように、本人たちにしか見えないARの薔薇が咲き乱れ、黄金の光の粒子が舞い散る。


「坊ちゃま、ご注意を。センサーに反応がございます」


Clockが冷ややかに警告する。


「周囲に無認可のAR拡張空間を認識。取り調べ担当のカーボンユニット、警棒の拡張率30%増大。……これは、生物学的に見て極めて危険な状態と判断いたします」


「見ちゃダメだっ、帰るよっ!!」


僕は顔を真っ赤にしてビギーに飛び乗った。


だが、走り出したビギーの足取りは、どこかおかしい。右の後ろ脚を引きずるようにガタガタと震わせていた――


「マスター……なんだか、力が出ないよぉ……」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「…あら、偶然ね。今帰りなの?なんだか元気ないわね…」


「あ…美香子(みかこ)ちゃん…こんばんは… 今日、一人でごはん食べてきたんだ…」


「…そうなの?一人で?凄い!自立への第一歩、頑張ったわね!?…それじゃ、足元に気をつけて帰るのよ!またね?」


「う…うん…いつも、応援ありがとう…またね、美香子ちゃん…」


嬉しそうだったな、美香子ちゃん…よし!これからも頑張ろう…


心優しい幼馴染と別れ、トボトボと夕闇に消えていく。そして僕は、帰宅後の静まり返った自室で、スマホを手に取った。


――――――――――――――――――――――――――――――


写真:クロックに給仕されながら食べる僕と、山盛りのメガ豚トンかつとじ定食の2枚


今日はタウンコーナーショップに行きました。はじめての一人外食です!すごいボリューム!でも、ちょっとビギーの調子が悪いかも。足引きずってるし、エンジンから変な音がする。どうしよう…


#タウンコーナーショップ #ソロ #心配 #寝れない


――――――――――――――――――――――――――――――


名無しさん:


大盛りだねー!?怪我、大丈夫? 治るかな? 心配だね……。


通りすがり:


取説みた? その型、もうパーツないかも。修理早く出した方がいいね。


――――――――――――――――――――――――――――――

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