第3話:邂逅
――その時。
スーッ。静寂を切り裂くように。だが、機械的な音を奏で開く自動ドア。
「――合理的ではございませんね」
店内の喧騒を冷徹で涼やかな声が断ち切り、背後にいた屈強な男たちが一斉に振り返る。
そこに立っていたのは、安っぽいLED照明の下でも、その装甲がプラチナのような輝きを放つ、最新式自律AI搭載型ヒューマノイド執事――、Clockであった。
最新の流線型のフォルムを纏い、光を飲み込む表情なき黒鏡のバイザー。首筋にはパパの会社のロゴが刻まれ、その存在自体が「一線を画す圧倒的資本」を体現している。Clockは、人には見えないAR空間に投影された戦術マップを操作するように、細長い指先でARメガネを「スチャッ」と直した。
「坊ちゃま……。旦那様より、あなた様の『自立』という名の無謀な迷走を、論理的に補完するよう命じられました。Clockと申します。お見知りおきを…」
「ク、クロック…Crock…?! だれ?!パパの刺客!?なぜ、ここに……」
「CrockではなくClockでございます。量子通信により、BusyDoggyの演算バグは1.5秒前に検知済みでございます。……さて、店員殿」
Clockは、僕を優しく、しかし抗えない力で食券機の前から退かせると、自らその前に立った。その後ろ姿は、もはや執事というよりは、戦場を支配する戦士のようだった。
「……な、なんだよお前。ロボットか?」
「左様でございます。……この食券機、およびこの店舗が使用している決済ネットワークにアクセスいたしました。現在、坊ちゃまの空腹指数は85%、血糖値は低下気味。必要なのは幻のペガサスではなく、この店の最高カロリーメニューである『メガ豚かつとじ定食・肉ダブル・ご飯特盛り』でございます」
毒気を抜かれた店員が、たじろぎながら尋ねるが、Clockのその指先はマジシャンの如く流麗にワンハンドファンを展開し複数枚の『美食家カード』を挟んでいる。地方出張のサラリーマンが必ずこのカードもしくは競合の同種サービスカード付き宿泊プランを選択すると言われる、あの有名カードである!!
「合理的判断を下します。……支払いはこちらで。なお、後ろに並んでいるカーボンユニット(人間)の皆様の分も、このカードで一括決済いたします。それが、坊ちゃまが皆様のご注文をお待たせした事に対する、論理的な対価でございます」
静まり返る店内。
Clockは一切の無駄がない動作で直接注文・決済を済ませると、凍りついたおじさまたちの間を、僕を引き連れ風のように通り過ぎカウンターへと向かう。
カウンターに座らされた僕の前に、山盛りのメガ豚かつとじ定食が運ばれてくる。だが、少食の僕にとって、その量はあまりにも圧倒的暴力オーバーキルだった!!
「…ね…ねぇ、Clock。僕、こんなに……食べられないよ」
「ご安心を。咀嚼回数と消化効率を計算し、サポートいたします。……おや、ご飯が足りませんな」
Clockは席を立つと、店内にある無骨な『ご飯おかわりロボット』の前に立った。本来、それは工事現場の男たちが豪快にボタンを叩き、米をぶちまけるための機械だ。しかし、Clockがその前に立つと、まるで物語の幕開けを告げるかのような荘厳な空気を醸し出している。
――スチャッ。
再びARメガネを直すClock。その指先が、目にも止まらぬ速さで操作パネルをハッキングのごとく、超精密にタイプする!!
「白米の密度、含水率、重力加速度を計算。……射出開始」
本来、単純にボトボトと落ちるはずの米が、Clockの持つ丼の上で、まるで芸術作品のように層を成して積み上がっていく。一粒の乱れもなく、完璧な円錐形を描く白米。
ドカチンのおじさまたちも、今や食事を忘れ、その完璧すぎる「おかわり」の光景に息を呑んでいた。
「……す、すげぇ……」
「あんな綺麗に盛れる機械だったか、あれ……?」
『何なんだ貴様はッ! Clockッ! ご飯を盛るだけで、なぜそこまで神々しいオーラを放っているんだッ! だが……この米の輝き、……悪くない。パパの用意した有機栽培米とは違う、この、精製された暴力的な白さッ! これが自由の白さかッ?!』
Clockがスマートに差し出した丼を、震える手で受け取る。外では、電柱に繋がれたビギーが「ブォォォォン! カタカタ!」と、窓ガラスに頭部を押し付け嫉妬に狂ったエンジン音を響かせていた。
「…ん?」
揺れるテーブルに置かれたお冷。その表面が超音波洗浄機のように振動する!
「マ゛ス゛タ゛ー゛へ゛ガ゛サ゛ス゛う゛う゛う゛」
『YouTubeでみたぞコレ、確か…固体…伝播!?怖ッ!!あいつにはこんな機能もあるのかッ!?』
三河のガテン系聖地で、少年と超高性能AI、そして放置されたポンコツロボット。奇妙な三角関係のまま、物語は「警察沙汰」という次なる混沌へと向かっていく――




