第16話:免許
「おめでとうございます。……こちらが、あなたの免許証です」
交付されたばかりのプラスチックのカード。そこには、少し緊張で強張った、しかし確実に「外の世界」へと踏み出した自分の顔が写っていた。
「……免許、……取れた。……僕の、名前、書いてある……」
『信じられんッ! この10センチ足らずのカードに、俺の21年間の引きこもり生活に対する決算報告書が刻まれているようだぜッ! 住所、氏名、そして“原付は自立姿勢制御装置付(型式:BUSYDOGGY-TYPE1-001)に限る”の文字ッ! これこそが、俺の自由の証明書だッ!』
Clockは、その横で静かに記録を開始していた。
「合理的なステップの完了でございます。……これで、旦那様の用意したEVではなく、自らのビギーで道を往く権利を得ました。……お疲れ様でございました、坊ちゃま」
「……ありがとう、ビギー、Clock。……君たちの、……おかげ、だね。取れた。……僕の、……免許」
「おめでとう!マスター!!これで、ローマまでドライブできるね!!ずっと一緒だよ!!ブォォォォン!!」
『おおっ ……! この冷たい感触ッ! これこそが、俺が21年間のひきこもりにケリをつけた、血と汗の結晶…震えが止まらんぜッ!』
試験場の出口。僕は、交付されたばかりの免許証を、まるで聖遺物のように両手で捧げ持っていた。隣では、ClockがARメガネをスチャッと直し、その光景を0.1秒で網膜ログに記録する。
「いえ。マークシートを塗りつぶしたのは、他ならぬ坊ちゃまの右腕でございますから」
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「あら…どうしたの?今日は早いじゃない」
「み…美香子ちゃん… あのね…明日、原付免許とりに行くんだ…」
「免許?じゃあ、勉強、頑張らないとね!捗ってる?」
「難しくて…知ってる?…べ…勉強…塾があるんだって。でも、行くの緊張するな…」
「大丈夫!評価高いって聞いたわよ。そうそう、免許って長く使う証明書だから身だしなみ整えて行くのよ?」
「うん…そうだね…いつも心配ありがとう、美香子ちゃん…」
緊張で、今日はいつも以上にしどろもどろになったかも…気合い入れないと!!
――帰宅後、昨日の記憶が一瞬蘇るも興奮冷めやらぬ僕は、名前と住所を指で隠し免許証の「顔写真」だけが見えるようにスマホのカメラを構え、投稿ボタンを押した。
『見てくれ、世界ッ! これが俺の、第一歩だッ! ……ん、待てよ。しまった!!…この写真……髪が、……ボサボサだ……』
パパが呼ぶ美容師を拒絶し続け、伸び放題になった前髪。それはどこか、三河の湿気を含んだ薄汚いナポレオンのようでもあった。
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写真:交付されたばかりの原付免許。顔写真の髪はボサボサ。
初めての免許です! ヘッドショットスクールのおかげで一発合格! やった〜!! これでビギーと、どこまでも行ける!
#原付免許 #一発合格 #どこでもいける
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名無しさん:
俺もそこ行ったwwwあの勉強塾、愛知の受験生には神だよね! おめでとう!
通りすがり:
免許取得おめでとう!! ビギーくんとのドライブ、楽しみだね! 世界が広がるよ!
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