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チーズ姫と凸凹従者 ~街道爆走道中記~  作者: 熊猫太郎
第五章:三河のナポレオン、電子の洗脳
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第15話:試験

試験場内。介護ロボットとしての同伴許可を得たClockを従え、僕は視力検査の列に並んでいた。


いよいよ自分の番。検査機を覗き込むが、極度の緊張で声が出ない…!!


「……あ、……えっと……」


『何ィッ! 喉が、喉がロックされていやがるッ! この「C」の形をした輪っかが、どっちを向いているか答えるだけなのにッ!言えッ、言うんだ俺ッ!』


僕は、胸の前で指を「モジモジ」と動かした。それは傍目には怯える少年の仕草に見えたが、その指先は正確にランドルト環の切れ目を指し示していた。


「……はい、上ね。次は右。……はい、合格よ」


ベテランの先輩女性職員が、淡々とハンコを押す。


「ちょっと先輩、それはおかしいですよ! 全然答えてないじゃないですか!!」


隣にいた真面目一徹な新人職員が噛み付いた。


「はぁ~~~~(クソでかため息)。キミさぁ、もういい加減覚えたら? 身体障害を伴う方や、意思疎通に困難がある方の検査において、指差しによる応答は一般的に認められている手法なのよ。素人じゃないんだから、現場で自己判断できるようになりなさい。いちいちキミの相手をするほど私も暇じゃないのよ?…ったく…最近の若い男は…」


「ですが、あんなモジモジした動きで……」


「それが彼の言語なのよ! 令和のバリアフリー精神を忘れんじゃないわよ!」


『……通ったッ! 通ったぞォォッ! 何だか知らんが、俺のモジモジが正解として受理されたッ! これも……これも自立への第一歩なのかッ!?』


僕は、Clockの「合理的無表情」に見守られながら、いよいよ運命の筆記試験会場へと足を踏み入れた…!




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「…えー、では、制限時間30分。はい、始めてください」


筆記試験会場。鉛筆のカリカリという音と、張り詰めた沈黙が支配する空間で、絶望的な緊張に襲われていた。


『なにィッ! わからんぞ!?ヘッドショットスクールの勉強が効いていない!?手が……震えて、マークシートを塗りつぶせんッ! 100問近いこの選択肢の海を、俺のこのひ弱な右腕で航海しろと言うのかッ!!』


隣に控えるのは、介護ロボットとして特別に同伴を許可されたClock。ARメガネをスチャッと直し、0.1秒で試験問題の全パターンをスキャン。ヘッドショットスクールの網膜情報をプロトコルとして同期させる。


――その瞬間、視界が変わった。


『……あ、光ってる……?』


Clockが放つ、人間には感知できない波長の可視光外レーザーが、網膜の情報と交差し、正解のマーク欄だけを淡く黄金色に照らし出している。それはまさに、神の導き(物理)であった!!


『おおっ ……、見えるッ! 正解の道筋がッ! これぞ、ヘッドショットスクールの真価かッ! さすが全員合格を謳うだけはあるな!?迷いはないッ! 塗れッ、塗り潰せ俺の鉛筆よォッ!』


だが、Clockは冷静だった。骨伝導で伝わる音声。


「聞こえますか…坊ちゃま…私は今、鼓膜ではなく蝸牛(かぎゅう)に直接音声を届けております。反応なさらないように。合理的判断を下します。全てを正解しては不自然でございます。統計学的に見て、数問の誤回答を意図的に挿入し、平均的な努力した合格者を装うのが上策。……左下、2問ほど、光っていない箇所をマークするのが正解でございます。周囲のカーボンユニットに疑惑を抱かれぬ様、これにて音声コマンドでの介入を終了いたします」


『何という周到さッ!だが……この2問の間違いが、俺の自立という名の嘘を真実に変えるスパイスになるというのかッ! 』


こうして、僕は「天才的な凡人」の点数で、余裕の合格を勝ち取った――




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




筆記を終え、いよいよ最大の難関、実技試験(原付講習)へと移る。試験場のコースには、事前に持ち込み許可を得た、ビギーが待機していた。


「マスター! お待たせ! ボクのOSは今、実技試験モードに完全同期したよ! 落ちる要素は0.1%もないからね! ブォォォン!」


マフラーから黒ずんだ苔玉をプルプルと震わせ、ビギーが咆哮する。


試験官は、その異様な形状に目を丸くしたが、Clockが差し出した「役場認定書類」と「障害者手帳」のコンボに、何も言えず溜息をついた。


「……よし。じゃあ、始めてくれ。……まずは8の字走行だ」


「……は、はい。……い、行くよ、ビギー……」


『喰らえッ! ビギーッ! 貴様の二本足の真価をッ! 泥臭い三河の公道で培った、そのジャイロ制御の極致を見せてやれッ!』


僕が跨った瞬間、ビギーの動きが変貌した。通常の原付のような野暮ったい旋回ではない。ビギーは二本の足を極限までしならせ、遠心力と重力を完璧に計算し尽くした!!


「マスター、これも合格のセオリーだよ!ブォォォン!」


ビギーが披露したのは、もはや教習の域を超えていた。


極小の回転半径。重力に逆らうような深いバンク角。もはや実技を超えるそれはかつて中東国雑技団が披露し、伝説となったアクロバット自転車の絶技「孔雀(ピーコック)」そのものであった!!


「な……なんだ、あの動きは……!?」


「バイクがあんな角度で回れるわけがないッ! 物理法則を無視しているぞッ!」


周囲の受験生や試験官が絶叫する中、ビギーは優雅に、そして暴力的なまでの精度でコースを完走し、最後は、緊急停止用の2脚を華麗に展開し、1ミリの誤差もなく停止線でピタリと止まってみせた。


「……完璧でございます。いかがですかな?このジャイロ制御プログラムは」


ClockがARメガネを直し、満足げに頷く。


『勝ったッ! 完全勝利だッ! 雑技団も真っ青のこの演舞ッ! 文句の付けようがあるまいッ! 』

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