第11話:改造
自室の静寂を、スマホの通知音が切り裂く。ビギーの脚が治り、自立への希望が見えた矢先、画面に躍り出たのはいつもの「あの女」の投げ込む辛辣な爆弾だった。
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MIKA@修行中:
自分で行かずに出張させてるからwww友達じゃないしwwwただの業者www結局、パパの金でプロを呼んだだけwwwおままごとwww
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『業者だとッ! 貴様、とくさんのあの白魚のような指先から放たれる職人の魂を、ただの商売道具だと言いたいのかッ! ……いや、確かに金は払った。だが、あれは魂のセッションだったはずだッ!!』
悔しさで震える指先を握りしめた。
「……だったら、僕が……自分で行けるように、なればいい。……まずはビギーを、堂々と外を走れる原付にするんだ」
「合理的なタイミングでございますな。…改造用の部材、全ての到着を確認しております」
迷わずSNSを開いた。ターゲットは、昨日「そろそろか?」とDMをくれたあの男、とくさんだ。
「今日、あいてますか。あの、ビギーを、原付に、改造お願いします」
送信ボタンを押した直後、スマホが振動した。
「あいよ。今から行く。部品代は色つけとけよ」
『な、なにィッ! 早すぎるッ! 光速!?既読から返信まで0.2秒……! 脳に直結しているのか!? 三河の職人のレスポンス、恐るべしッ!』
「Clock、迎える準備するよ!よーし!ビギー、ガレージへ直行だ!!」
「わかったよマスター!量子転送モード、起動!!周囲の空間をワープバブルで包んだよ!準備はいい!?亜空間ジャンプするよ!つかまってて!!ブォォォォン!!」
「わっ待って!!そんな機能もあるの!?亜空間ジャンプって何!?」
「……ございません」
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――ここで、とくさんの家庭事情を紐解かねばならない。
とくさんには、18歳になる一人娘、みどりがいる。
彼女が大学合格を勝ち取ったあの日まで、家の中は平和そのものだった。
だが、とくさんには「闇」があった。
彼は三河の不夜城で働くキャバ嬢・サブリナの熱烈な客であり、重度の「靴フェチ」だったのだ。
サブリナの実家はかつて靴職人の家系であり、彼女自身も靴を愛していた。
とくさんは高級な靴をサブリナに貢ぎ、あろうことかその靴を舐めることに至上の喜びを感じていた。
ある日、みどりは父の部屋で見てしまった。
女子大生の自分のものでも、亡き母のものでもない、見知らぬサイズの美しいヒールが並んでいるのを。
「お父さん、これ……誰の?」
問い詰められたとくさんは、動揺のあまりキャバクラ通いと「靴舐め」の趣味を白状してしまった。
その瞬間、娘の心の中で何かが弾けた。
激しい怒り、慟哭。そして、湧き上がる欲求…それが、大地への帰依。
「……信じられない。お父さんも、この汚れた大人たちの世界も。……How dare you!」
彼女はグレた。文字通り、「グレた」のである。
ウエスタンテール市の旧イメージキャラクター[グリーンちゃん]を彷彿とさせる鮮やかな緑色のアフロヘアーを反旗の如く掲げ、複雑に織り込まれたパッチワークのキルトを纏い、父親の[油まみれの工業機械]に対抗し、彼女は[地球の代弁者]として覚醒したのだ…!!




