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チーズ姫と凸凹従者 ~街道爆走道中記~  作者: 熊猫太郎
第一章:三河の聖域、純粋培養の世界
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第1話:苦悩

愛知県西三河地方。


ここは、製造業の血脈が脈々と流れる、ハイテクと土着の精神が奇妙に混ざり合った土地だ。

都会というには空が広すぎ、田舎というには工場の夜景が眩しすぎる。


この地において僕のパパ、「見えざる支配者インビジブル・ルーラー」と呼ばれる超巨大テック企業のCEOの言葉は物理法則に等しい。


そんなパパが、僕のために用意した「聖域」が、この200平米の自室だ。最新のスマートホーム機能、温度、湿度、酸素濃度まで管理されたその部屋で21年間、一滴の汚れも知らずに育ってきた。


鏡の前に立てば、そこには日焼けを知らない透き通るような白い肌、潤んだ瞳、そして肩まで伸びたしなやかな髪を持つ少年が映る。


だが、その内側――脳内は、隠れて読み耽った世紀末な格闘漫画の影響で、常に漆黒の炎が渦巻いていた。


『こんなはずじゃないッ!!僕は…沈んでたまるかッ!!』


独り言や家族の前では饒舌である。だが現実は――


他人を前にすると「あ…そ…その……えっと……」と吃音しか言葉が出ない極度の生粋なコミュ障である!


さらに、パパが「歩くと痛いの?かわいそうだろ…」の一心で主治医に書かせた忖度まみれの『障害者手帳3級』が、ポケットで重く沈んでいる。


実際、足の痛みはある。だがそれは、30分も歩けば膝が笑い出すという、運動不足と精神的重圧が生んだ虚弱体質によるものだ。


そんな僕が、自立への第一歩として手に入れたのが、パパに強請り倒して買い与えられた四足歩行型AIロボット、BusyDoggyこと、ビギーだ!!



「ブォォォォン! カタカタカタ!」


室内に似つかわしくない、野蛮な内燃機関の音が響き青白い排ガスが充満する。

剥き出しのメカニカルな関節の四肢をワシャワシャ動かして進む姿がコミカルだ。


「初めまして!マスター!!ボクの名前、ビギーって言うの?ヨロシクね!!ブォォォォン!」


「おおッ!最高だろ、この熱量!!ガソリンエンジンが嫌いな男子はいませんッ!!よろしくな、相棒!!」


「ブォォォォン!!」



ビギーは旧型の軍事用をベースにした現代基準ではポンコツなAI搭載だが、その無骨な金属の4脚は、僕にとっての自由への翼だ!


「よし、いくぞ…写真を添付して…ポストだ!!いけっ!」


震える指で、閲覧専用アカウントに人生初のSNS投稿を行った。


――――――――――――――――――――――――――――――


写真:BusyDoggyに跨る僕


パパにBusyDoggy買ってもらった!名前はビギー! 悪路走破性100%。どんな険しい道も、こいつとなら超えられる!!



#ロボット #最強の相棒 #自室


――――――――――――――――――――――――――――――


投稿からわずか3秒。


地獄からの通知音が、静寂な部屋に冷酷に響き渡る!!


――――――――――――――――――――――――――――――


MIKA@修行中:


悪路走破性?www パパの金でwww爆笑なんだけどwww

あんた、自分の部屋の敷居すら跨げない筋金入りのヒキのくせに、何が走破性だよwww

外に出られないのに、泥道も岩場も関係ないじゃんwwwうけるwww


――――――――――――――――――――――――――――――


「……なっ!?」


画面を凝視したまま、顔が林檎のように赤くなる。屈辱と怒りで、指が細かく震えるッ!!


「な、なにィッ! 貴様ーッ! 誰だか知らんが、この俺を……この俺を“ヒキ”呼ばわりしたなッ!おまけにパパの金だと言ったかッ! 事実だが、それを口にするのは万死に値する無礼だぞッ!泥を(すす)らせてやるッ! このビギーの(わだち)に刻んでやるぞォォッ! クソがーッ!行くぞッ!出てやるッ!!この部屋からお望み通りになッ!!」


しかし、打ち返したリプライはこれだ。


――――――――――――――――――――――――――――――


「あはは、そんなこと、ないですよ……明日いきます、外。たぶん」


――――――――――――――――――――――――――――――


即レス。


――――――――――――――――――――――――――――――


MIKA@修行中:


明日はこないね?wwwだって、永遠のビューティフルサンデーだもんねwww


――――――――――――――――――――――――――――――


結果はレスバの完全敗北だった。



「……、……い、行くよ。外、出るッ!」


「……………………………………………」


「……いや、今日はダメだ…。まだ12月。寒いし…時期が悪い。来月から外へ出る…」



―――――3か月後。


僕はついに決意した。


それからというもの、パパが定期的に送り込んでくるヘアカットすら「自立するから自分で切る!」と拒否し続け、瞳を隠したボサボサに伸びた髪を雑に束ねる。


目指す目的地は、独立した庶民の象徴、大手牛丼チェーン店。パパが用意する産地直送・無農薬な食事ではなく、紅生姜を山盛りに乗せ脂に満ちたジャンクな一杯こそが、僕の自由の味になる…はずだった。


「マスター! 任せてよ! ボクの演算によれば、最短ルートで『聖地』へ案内するよ! 目的地:牛丼……検索中……。エラー。代わりに『伝説のメニュー』をレコメンドするよ! ブォォォン!」


ビギーの背中に乗り、ついに自室の自動ドアを突破した。玄関ホールでは、監視カメラがパパの執務室へとリアルタイムで映像を送っているはずだが、今は構っていられないッ!!走れッ!ビギー!!

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