表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地味な悪役令嬢は卒業します!せっかくですから着飾ってやりますわ!  作者: 柊 花澄


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/48

16 公爵令息ルシアンの願い

 公爵邸の図書室で、五歳の僕は絵本を読んでいた。


 隣に座っている母が「ルシアンはその絵本が好きなのね」と微笑んだので、僕はこくりと頷いた。

 僕が手にしている絵本『傾国の妖精のおはなし』は、母が生まれた国から持ってきた本だ。


「母上、『傾国の妖精』を好きになった男の人は、この王様みたいに狂って国をだめにしてしまうの?」

 この絵本に出てくる妖精はピンクの髪にエメラルドの瞳で、妹そっくりの姿をしている。

 僕はなぜか不安な気持ちになって、母の腕に頬をくっつけながら尋ねた。


「いいえルシアン。この絵本の王様は、大好きな妖精から愛されなかったの。でもね、妖精からたくさん愛をもらった男の人は幸せになって、よい国をつくることができるのよ」

 母は僕の銀の髪を優しく撫でながら教えてくれた。


(たくさん愛をもらったら幸せになる――)


 僕は母のエメラルドの瞳をじっと見つめながら尋ねた。

「父上も、母上からたくさん愛をもらっているの?」

「ええ、そうよ。そして私もレオンからたくさん愛をもらっているから、とっても幸せなの」


 絵本の妖精と同じ、ピンク色の髪とエメラルドの瞳をした母は、綺麗に微笑んだ。


「あなた達はレオンと私の大切な宝物」


 その美しい母は、僕が九歳になった時に()()()()についた。


♢♢♢


 妹のロゼがフェリクスの婚約者に選ばれたことに、僕は納得できないでいた。

 フェリクスは「婚約者なんて誰でもいい」って言っていた。

 誰でもいい、なんていうやつに僕の大切な妹を渡したくない。


 父はよく言っていた。

「オフィーリアと結婚できないなら、一生誰とも結婚しないつもりでいた。彼女は私にとっての唯一無二だ」

 父は母のことをまるで世界に一つだけの宝物を見るように、いつも愛おしそうに見ていた。母も父の隣でいつも蕩けるような笑みを浮かべていた。

 父と母は愛し合っていて、とても幸せそうだった。


 だから僕は、ロゼをたくさん愛してくれる人でないと嫌だと思った。

 そう思ったから「誰でもいいなら僕の妹は絶対に選ばないで」ってお願いしたのに。

 

 ロゼが婚約者に決まったと聞いた次の日に、僕はフェリクスに詰め寄った。

「ねえ、誰でもよかったんでしょ? なんでロゼなの? 僕の妹は絶対に選ばないでって言ったのに!」


 フェリクスは気まずそうに俯いたあと、しばらくして顔を上げた。そして何かを決意したような真剣な眼差しでこう言った。

「プリムローズ嬢じゃないといやだ。僕にとって特別な女の子なんだ。だから、ごめんルシアン。君の妹を好きになることをゆるして」


 今まで僕は、フェリクスが頑なに何かを望む姿なんて見たことがなかったから驚いた。


「⋯⋯本当にロゼを大切にしてくれるの?」

「本当に大切にする!」

「絶対に大切にする?」

「うん、絶対に大切にする!」


「⋯⋯ふーん、わかったよ」


 フェリクスの必死の懇願に、僕はそれ以上何も言えなかった。


♢♢♢


 最近、ロゼに変化が起きた。

 学園で階段から落ちて二日間眠り続けて、そして目覚めてから様子が変わった。


 まず、装いが華やかになった。

 それとなく尋ねると、友人と買い物に出かけて、流行りのドレスや化粧品を選んでもらったと言う。一緒に出掛けるほど親しい友人がいたのか。

 また別の日には、アンヌと化粧や髪型について楽しそうに語っているところも見かけた。


「ロゼ、何か心境の変化でもあった?」

「お兄様、花の命は短いということに気づいたの」

「ロゼは何歳になっても美しい花のままだと思うよ」

「あら、お兄様がそんな甘美(ロマンチック)なことを言うなんて珍しいわね。その素敵なお言葉は、お兄様の愛する方に贈って差し上げて」


 どうやら上手く煙に巻かれたようだ。

 タチアナ女史の指導によって、着飾ることに罪悪感を感じていたロゼが、突然変わった理由は何だ?


 学園でも注目を集めているようだ。

 同僚がわざわざ私の席まで来て教えてくれた。

「君の妹って凄い美人なんだってね。俺の弟が学園で同じクラスらしくてさ、最近は笑顔で挨拶を返してくれる、って喜んでるよ。しかもプリン食べた時の笑顔が可愛くて天使だとか、とにかく大興奮しててさ。すっかり君の妹の崇拝者だよ」


 まずいな、愛嬌を振りまいているのか。私は前髪をかきあげて溜息をつく。

 あの笑顔を向けられて落ちない男はいないだろう。甘味を食べた時の蕩ける笑顔なんて特に破壊力抜群だからな。タチアナ女史も危惧していた位だし。仕方ない、影の護衛を増やしておくか。


 昔からロゼの美しさと身分に引き寄せられる輩は多く、誘拐未遂事件が後を絶たない。そこで常に影の護衛をつけ、秘密裏に事件を処理している。


 侍女のアンヌも実は護衛を兼ねている。アンヌはフォルトア聖国の王家の影を担う一門の娘で、五年前に聖国に頼んで派遣してもらったのだ。アンヌがお仕着せの下に暗具を忍ばせて、近づく痴れ者を屠っていることをロゼは知らない。


 王太子と聖女の婚約なんて噂まで流れている上に、ロゼの周囲も騒がしくなってきているこの状況。さてフェリクスはどう動くつもりかな。


 ねえフェリクス。あの時の約束、僕は忘れてないからね?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ