14 悪役令嬢の衣裳部屋
私プリムローズは類稀なる美貌と女性らしい曲線美の持ち主である。だが、生真面目な性格と王太子妃教育の賜物で、面白みのない完璧な淑女になっていた。
だけど、前世の記憶を思い出した私はこの状況に甘んじるつもりはない。残り少ない青春を楽しむと決めたもの。
私は前世ではお洒落が好きで友人も多かったし、よく美人だとも言われていたわね。決して大袈裟に言っているのではないわ、これは客観的事実よ。
今世は前世以上の美貌に生まれ付いたのだ。着飾り甲斐があるというものだわ。
私は銀細工で縁どられた大きな鏡を見ながら深く頷いた。
さて、まずはドレスから手を付けていきましょう。
毎日の着替えはアンヌが部屋に運んでくれるので、私は自分がどんなドレスを持っているのか把握していなかった。
久しぶりに私専用の衣裳部屋を訪れる。扉をバーンと開け放って、つかつかと中に入る。
――そして愕然とした。
「何これ。地味すぎない!?」
ずらりと並んだドレスのラインナップが非常に渋い。
紺・灰色・鈍色・茶褐色・深緑といった渋い色ばかり。こういう色も似合うとは思うわよ、この美貌ですもの。でもせっかく色白肌にピンクブロンドの髪なのだから、明るく華やかな色だって着てみたい。
それにボディラインを隠すためなのか、妙に野暮ったいデザインが多い。これじゃ、せっかくの曲線美が宝の持ち腐れだわ。
十代の貴族令嬢のクローゼットって、普通はもっと華やかだと思うの。
一着の紺のドレスを手に取ってみる。
最高級の布地で作られた滑らかな手触りのこのドレスは、昨年フェリクス様名義で贈られたドレスだ。
王家から贈られるドレスは、全てタチアナ女史の最終チェックが入るため、やはり首元までレースで覆われている。しかもよく見るとレースには裏地がついていて透け感ゼロである。
本当に細かい所まで徹底しているわね、と感心する。
そもそも王族は鎖骨を見せたらいけない決まりなどない。
「というか夜会は皆デコルテ出しているわよね。ひょっとして今までの私って、夜会でかなり浮いていたのではなくて?」
げんなりした気分で衣裳部屋を出た私は、ひとまず私室に戻った。
お洒落にどの程度お金をかけるか計画を立てようと、プリムローズの私財の帳簿を開く。幼い頃は執事が記入してくれていたが、学園に入学した頃から自分で管理している。
公爵令嬢に与えられる予算は少なくはない。品位を落とさないために必要な経費だからだ。
私は一部を教会に寄付して、自分に必要なだけの本や雑貨を買い、残りは全て貯金していた。
「いつの間にか、王都に小さい一軒家を買えるくらい貯まっているじゃないの!」
寄付はそのまま続けるとして、ある程度ドレスや化粧品を揃えても全く問題ないわね。
私はベルを鳴らしてアンヌを呼んだ。
「アンヌ。衣裳部屋のドレスを一新したいの。王家から贈られたもの以外は全部売ってちょうだい」
アンヌは感無量といった様子で、まるで神に祈るかのように両手を胸の前に組んだ。
「お嬢様、やっとその気になってくださったんですね!」
「ええ、やっと目が覚めたの」
私は部屋の窓を開けて、大きく深呼吸した。
外から入ってくる心地よい風でカーテンが揺らめき、ピンクブロンドの長い髪も揺れる。
「気分転換に、明日は街に行きたいわ。なんだか今までの鬱憤を晴らしたい気分なのよ。アンヌ、付き合ってくれる?」
「はい、喜んで! お忍び町娘コーデですね、張り切って準備いたします!」
アンヌは嬉々とした表情で答え、颯爽と部屋を出ていった。




