表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/42

春樹の未来④

 8月9日(土)


 夏休みに入って3連休の初日ということもあり、親子連れの来場者が朝から万博会場を賑やかせていた。


 西園寺ひかりは、その中を友人と歩いていた。

 今日は久しぶりの休日。 

 世間は3連休だが、1日だけ休みをもらうことができた。

 なのに彼女の足は自然と、勤務先の会場へと向かっていた。


 万博会場には郵便局が2つある。

広大な万博会場の端と端。西と東に一つずつある。


 東ゲートを入ってすぐの場所にあるEAST郵便局で開催される「記念押印イベント」。

 万博会期中の記念押印とは違ったひかりの推しのキャラクターのたった一日の限定催し。

 郵便局の建物の外にまで並ぶ行列に、ひかりは思わず笑った。

 「まさか、こんなに並ぶとは……」

 

 友人が叫ぶ

 「げ、2時間待ちですって!」


 強い日差しの中、汗を拭いながらも、切手帳を抱える手は嬉しそうだった。

 “仕事ができる”と評される彼女だが、こうした時間の中でだけ、幼い少女のような顔に戻る。


 順番を待ちながら、ひかりは空を見上げる。

 「この空の下に、春樹もいるのかな」

 ふと浮かんだその名を、誰にも聞かれぬよう胸の奥に閉じ込めた。


 ……ひかりは知っていた。

同じ休みの日に春樹と未来が一般客として会場内に来ている事を。


 一方その頃、会場の反対側……西ゲートから程近い場所にあるWEST郵便局。

 春樹と未来はそこにいた。


 「一つ聞いて良いかな?今日は一日券を買ったんですね。」

 春樹は未来から渡された電子チケットを示しながらそう言った。


 「はい。私は通期パスを持っているけど、空野さんが持っていないとの事だったので…。」


 「どうして2枚なの?」

 春樹と同じデザインの一日券電子チケットを未来も持っていた。


 「気づかれちゃいました?」

 未来は少し逡巡しながら応えた。


 「それ、一日券1枚買うより少しだけ安いんですよね。」


 未来は、少しの沈黙のあとで、小さく息を吐いた。

そして、淡い声で言った。


 「私、少しだけ特別なんです。国の指定してる病気―特定疾患―難病なんです。治らないって言われてます。」


 春樹は言葉を失った。


 ……「ちょっとだけ病院と仲良しなだけですよ。」

 そう言って笑う未来の表情には普段の無邪気な笑顔とは違う何処か儚げな脆さと”影”を感じさせた。


 「見てください、これ。気になりません?」

 未来は子どものように目を輝かせる。

 春樹は腕を組んで案内板を読んだ。


 《「Pℓay!未来からの手紙 」》

 《名前や年齢、将来の夢などを入力し、顔写真を撮影すると、生成AIが「20年後の自分」からの手紙を作成してくれます!》


 春樹は笑う。

 「面白い発想ですね。……けど、ちょっと怖い気もします」

 「私はワクワクしますけどね。だって、自分がどんな風に生きてるか、少しだけ覗けるなんて」


 未来の笑顔は、先程とは違い、まっすぐで眩しかった。

 春樹は心の奥で、その透明な輝きにほんの少しの痛みを覚えた……。

未来は通期パスを別に購入しているが、春樹のお礼にと一日券を2人分購入。2025大阪・関西万博では、会期中にいつでも1回入場可能な1日券は大人は7,500円であり、障害者手帳等(特定疾患含む)を持っている方と同伴者(介助者)1名が購入出来る特別割引券は1枚3,700円。2枚で7,400円であり、未来が春樹に1日券をプレゼントするより、特別券を2枚買った方が100円安く済みました。健常者である春樹1人ではこの券は使えず、未来と一緒に入場(2枚購入)する必要があります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ