ひかりの未来④
夕陽が万博の会場を赤く染めていた。
空気が澄んでいるのに、胸だけがどこかざらついている。
未来が去り際に震えながら見せた表情。
そういえば、以前、急に苦しそうに肩で息をする瞬間があった…。
すぐに笑顔を返したので大丈夫だろうと思ったが、あれは…。
ひかりの心が、ゆっくりと真実へ寄っていく。
胸が締めつけられた。
未来は明るい。
誰よりも優しくて、人の痛みに気づける。
でも……その優しさの裏で、自分が抱えているものを誰にも言えずにいる。
(言えないんじゃない。言わないようにしている……)
そう理解した瞬間、ひかりは胸が熱くなった。
未来の震え。
未来の影。
そのとき、春樹からメッセージが届いた。
《ひかり、さっき戻ったよ。ところで新垣さんどうした?さっき顔色悪かったから気になって》
春樹は優しい。
けれど、未来がどこまで“隠しているのか”までは、きっと気づけていない。
未来は、春樹には弱いところを見せたくないから。
ひかりは思い知った。
(未来ちゃん……あなた、好きなんだね。春樹のこと)
恋なのか、憧れなのか。
未来自身もわからないほど純粋で、痛いほど透明な感情。
でも……未来には「時間」がない。
たぶん本人が一番知っている。
未来は20年後の未来からの手紙を体験して来たと話してくれた。
(未来ちゃん……あなたは、本当は“20年後の自分”に会えないかもしれないと感じてるの?)
ひかりの膝が震えた。
気づいたら、涙がこぼれていた。
「……なんでそんな顔で笑うのよ。未来ちゃん」
遠くで人々の歓声が響くなか、ひかりだけが取り残される。
……未来は儚い。
……未来には時間がない。
その真実に、ひかりの心が静かに沈んでいく。
ひかりは、この物語の“はじまりの扉”に手をかけた。




