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第5章 未来の約束①

 俺がオランダ館を出ようとすると、未来は両手で腕をつかんできた。

 未来は俺のほうを見上げ、少しだけ照れたように笑う。


「お昼……私に、奢らせてもらえませんか?」


「え?」


「……あの時のお礼です。空野さんが助けてくれた時の」


 未来の声は、優しくて、けれど強い意志がにじんでいた。


「今日は、一緒に食べたいものがあるんです」


 ……確かに食事を一緒にとの約束だった。


「どんなもの?」


「万博でしか食べられない料理です。せっかくだから……空野さんと、一緒に体験したくて」


 未来は少し間を置いて続けた。


 そう言って未来はショップのグッズ売り場とは反対の壁際に目をやった。

 そこには大きなモニターが掛けられており、画面にはドリンクと軽食のメニューが映されていた。


「実は……今日来る前に、色々調べてたんです。オランダ館の体験を全部楽しむなら、ハーリング(塩漬けニシンのたまねぎ添え)だけは外せないって」


 そう言って未来は、ちょっと誇らしげに笑った。


「空野さんと一緒なら、どんな味でも思い出になる気がして……だから、今日は絶対に食べたかったんです」


 胸のどこか深い場所に、その言葉が落ちていく。


 未来は無邪気に続ける。


「それに……私、自分の“好き”や“楽しい”を誰かと共有したいって、こんなに思ったの、初めてなんです」


 風が二人の間を抜けていく。


 未来の横顔は少し赤く染まり、けれどまっすぐ前を向いている。


「なので……空野さん、どうですか?一緒に、オランダのお昼……食べてくれませんか?」


 その声を聞いた瞬間、

 俺はもう、迷う理由なんて一つもなかった。

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