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オランダ館 ④

 未来が棚の前でそっと微笑む姿を見ていると、胸の奥に静かな熱が灯っていくのを感じた。

 その横顔には、悔しさでも未練でもなく、どこか穏やかな微笑みが浮かんでいる。


 ……この人は、本当に強い。


欲しかったものが手に入らなくても、今日という特別な一日を“宝物”に変えようとしている。

 その姿勢が、胸の奥に静かな熱となって灯る。


「新垣さん、他のグッズも見てみる?」


 声をかけると、未来は驚いたように瞬きをし、すぐ柔らかく頷いた。


「……はい。せっかくなので」


 けれど、歩き出した未来の足取りは先ほどよりわずかに遅い。

 気持ちの整理をしているのかと思ったが、どこか苦しそうな顔をしている。


「新垣さん、無理してない?」


「……大丈夫です。胸が少しキュッとするだけなので。夏はよくあるんです」


 笑って言うその声は、強がりじゃない。

 ただ、俺を安心させようとする“気遣い”だった。


 その優しさが、逆に胸を締めつける。


「じゃあ……ゆっくり見よう」


「はい……ありがとうございます」


 未来の声がわずかに震えていた。


 俺は数歩後ろから、その横顔を静かに見つめる。


 ……この人は、どれだけの時間、想いを抱きしめて生きてきたんだろう。


 胸の奥が熱くなる。


「これ……買っていきます」


 未来は小さなピンバッジを大事そうに両手で包むように持った。

 ぬいぐるみとは違う。だが、未来の思い出のキャラクターだ。


「……いい買い物だね」


 そう言うと、未来は頬をほんのり赤くした。


「はい。すごく……嬉しいです」


 その笑顔は、今日一日が未来にとって確かに意味のある時間だった証のように見えた。


 ……今日の未来は、涙も笑顔も全部見せてくれた。


 そしてそのどれもが、俺の心に“記念押印”のように確かに刻まれている。


「空野さん……行きましょう」


 未来が微笑む。


 その笑顔は、優しく、まっすぐで……俺の胸は、もう誤魔化せないほど、未来へ傾き始めていた。

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