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Pℓay!郵便局 ④

「……空野さん、少しだけ待っててもらえますか?」


 未来は小さく笑い、スタンプパスポートを取り出した。

 開かれたページには、すでにびっしりとスタンプが押されている。


 未来はその空きページ……あらかじめ未使用の切手を貼ってあったページを開いた。


「……あれ? 前にも来てた?」


 思わずそう聞くと、未来は照れ笑いを浮かべた。


「実は……6月1日に一度万博に来ました。犬山市に住んでいる友達の家に泊まって、そこから車で。子どもが三人もいるので、みんな走り回っちゃって、郵便局には寄れなかったんですけど……」


 そこで俺は気づいた。


「犬山市って……愛知県の?」


「えっ……はい。空野さんって本当に物知りなんですね」


「いや、俺も愛知出身なんだよ」


「そうなんですか……!」


 未来の驚いた顔は、泣いた後とは思えないほど明るかった。


「私、7月から派遣されるのが決まってたので……その前に“お客さんとして体験しておきたい”って思ったんです」


 未来はスタンプ帳を、そっと撫でながら続けた。


「予約も本当に大変で……。7日前抽選は落ちて、3日前先着予約は夜中まで頑張って……。

 だから、来てくれた人がどれだけ大変な思いをしてパビリオンの予約を取ってくれたか、すっごく分かるんです」


 その“わかる”が、未来の仕事ぶりを作っている。


「……だから、私、どんなときも笑顔でいたいんです。

 “来てよかった”って思ってほしくて」


 そう言って未来は、スタンプ帳の後ろのほうを開いた。


「あ、このページはですね……友達の末っ子ちゃんが、“みらいちゃん、ここは宝物のページにしたら?”って言ってくれたんです」


 未来は、少し恥ずかしそうに笑いながらそのページを胸に当てた。


 その一瞬だけで、未来という人間がどれほど温かい関係に囲まれて生きているか、すぐ分かった。


「……宝物、か」


 未来は軽く頭を下げると、ゆっくり郵便局のカウンターへ向かっていく。


 未来が買ったのは万博限定のオリジナルフレーム切手だった。


「これ……“EXPO2025 WEST”と“EAST”の郵便局じゃないと買えないんですよね。万博の外では売ってないんです」


 そして記念押印(この日の限定デザインじゃなく、万博期間中ずっと使われる通常押印)されたパスポートを受け取ると未来は食い入るように見つめ、次の瞬間、息を呑んだ。


「わぁ……!」


 ぱっと花が咲くみたいに表情が輝く。


「すっごく……かわいい……」


 その喜び方があまりにも素直で、俺は胸が熱くなるのを誤魔化せなかった。


 未来は力を込めるようにスタンプ帳を抱きしめた。


「……ありがとう、空野さん」


「いや、俺は何もしてないよ」


「してます。だって……一緒に待っててくれたから」


 未来は涙じゃなく、笑顔で言った。


「今日の記念押印……ずっと大事にします」


 その言葉が、やけに静かに胸に落ちた。


 たったひとつの切手。

 たったひとつの押印。


 それすら未来は、宝物に変える。


 ……そんな未来が、俺にはどうしようもなく眩しかった。

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