第3章 Pℓay!郵便局 ①
次の方、どうぞ
未来が先にブースに入る。
AIカメラの前に立ち、顔を撮影する。
全面の画面に直接文字を入力する。
「20年後の、あなたの夢を入力してください。」
青い制服を着た郵便局員に促されたが、未来はしばらく指をかざしたまま動けなかった。
(…20年後の私って、生きて…るの?)
胸の奥が熱くなる。
未来はずっと、“今日の次の日”さえ怖かった。
未来なんて見ようとしたことすらない。
自分の病気のことだけは、どれだけ気丈に振る舞っても、ごまかせない現実だった。
それでも。
未来は少し考えて、指を動かした。
震える指でゆっくりと打ち始めた。
“大切な人と一緒に、静かに笑っていたい”
「…はは、私、こんなこと…」
自嘲じゃない。
ただ、胸の奥があまりにも痛かった。
未来は手を胸の前で固く握りしめた。
(お願い、生きていて……)
数秒の静寂。
AIが生成した《未来の手紙》が画面下の受け取り口にコトンと落ちた。
震える手でそれをすくいあげ、読み始めた途端、未来の膝はゆっくりと床に落ちた。
そこには、20年後の未来がいた。
驚くほど穏やかな表情。
ほんの少し痩せて、大人びているけれど、とても柔らかい目をしていた。
周囲に広がるのは、旅先のような見たことのない海辺の街。
20年後の未来は、生きていた。
生きて、どこかを旅していた。
胸の奥で何かが決壊して、未来は息を呑んだ。
《20年前の“私”へ。
未来、最初に言わせて。生きてくれて、本当にありがとう。
あなたは今、自分の体のことを誰にも話せず、ひとりで不安に震えているよね。
あなたが夜中に泣いた日も、痛みをこらえて笑った日も、全部、私は覚えている。
そしてね。あなたは今、「20年後の私なんて、いないかもしれない」と心の底で思っている。
でもね、私はここにいるよ。
あなたは生き延びた。
ちゃんと、生きて、20年後に辿り着いたんだよ。
「大切な人と一緒に、静かに笑っていたい」
その願いは叶ったよ。
だけど、その人が誰かはまだ言わない。
今のあなたが少しだけ好意を向けている、あの人かもしれないし、そうじゃないかもしれない。
それでも幸せになる。
どうか、未来をあきらめないで。
20年後のあなたより。》
文字を追ううちに、未来の目から涙が一粒、こぼれた。
AIが選んだその言葉の一つひとつが、まるで“誰か”の心を借りて書かれたように優しかった。
「……なんでだろう。こんなに温かいのに、苦しい」
未来は呟いた。
未来は手紙を読み終えた瞬間、胸に押しつぶされるような嗚咽を漏らした。
“20年後の自分が生きている”。
ただそれだけで、世界が変わるほどの救いだった。
手紙を抱きしめながら、
未来は小さく、小さく呟いた。
(…生きたい。…ちゃんと、生きてたい…)
春樹は彼女の横顔を見て、何かを言いかけたが、優しく見つめることしか出来なかった。
2025大阪・関西万博では会場内に郵便局は2つありました。西ゲート付近にある「EXPO2025 WEST郵便局」では、預け入れ又は払い戻しの際に「局名入ゴム印」を押印する通称「旅行貯金」を行ったり(平日のみ)、「Pℓay!未来からの手紙」等の体験型コンテンツを取り扱っている点が東ゲート付近にある「EXPO2025 EAST郵便局」との違いでした。一方、8月9日、西園寺ひかりが長時間並んだ特別な記念押印についてはEXPO2025 EAST郵便局だけで実施がされ、どちらも魅力的な郵便局でした。




