1/42
プロローグ
2025年、真夏の夢洲。
大阪・関西万博の熱気に照らされながら、私は自分の心が小さく軋む音を聞いた。
……空野春樹
職場で誰よりも優秀で、誰よりも頼れる…孤独な人。
私は彼と同じ職場で働き、仕事では“よき同僚”のふりをしている。
けれど本当は、ずっと前から気づいていた。
彼に恋している自分に…。
そんなある日、彼は取引先の若い女性……新垣未来の“お礼の食事”の誘いに応じた。
どうして?
それは嫉妬だった。
でもその感情より先に胸を刺したのは、春樹が見せたほんの小さな微笑みだった。
その頃の私は知らなかった。
彼女が郵便局で「20年後の未来の自分からの手紙」を受け取ったことも。
そしてその手紙が、私たち三人の運命を大きく変えていくことも。
万博の風は、生ぬるくて、どこか切なくて、少し塩味がした。
まるで、オランダ館で春樹と未来が買って食べたという“ハーリング”みたいに。




