~報瀬編~ サンドイッチ
野嶋自宅
夕方、速水が野嶋の自宅に戻りキッチンに行くと、朝食と昼食の食器がきれいに片付けられていた。
「おお、いい子だね」」
報瀬の隠している性格を少し見たような気がした。
速水は買ってきた夕食の荷物を置くと、報瀬の部屋へと階段を上った。
ドアをノックする。
「どうぞ」
すぐに報瀬の声が聞こえた。相変わらずぶっきらぼうな言い方だ。
ドアを開ける。
「サンドイッチ買ってきたよ。卵サンドにハムサンド、マヨネーズツナもあるよ」
報瀬は今日も本を読んでいた。
「暖かい季節だったら、お庭でピクニック気分で食べられるのにね」
速水は窓から庭を見下ろした。
すると、報瀬は音を立てて本を閉じた。
「とうさんに、仲良くしろって言われたんですか?」
「え、違うよ」
速水は迷いなく言うと振り返った。
「だったら、どうして」
報瀬は顔を伏せ、膝の上で両手を握っていた。
「え?何で?仲良くしたらダメなの?」
「仲良くしたって、何の意味もないでしょ!」
報瀬の言い方に苛立ちがこもった。
「仲良くなったら、一緒にいると楽しくなるでしょ」
「そういうの、ウザいんですよ!」
報瀬は膝に乗っていた本を床に叩きつけた。
二人は動きを止め、急に部屋の中が静かになった。
報瀬は握りしめた手を見ている。速水は報瀬が投げつけた本をじっと見ていた。
長く感じられる時間。
「お風呂入って来る」
報瀬は車椅子を動かし、速水を見ることなく部屋を出て行った。
『上手くいかないな』
速水は落ちている本を拾うと、机の上に置いて部屋を出た。
報瀬を怒らせてしまった自分の行動を後悔した。
薄暗いダイニングで、速水はハムサンドを食べた。
報瀬の気持ちを捉えることのできない自分が情けなかった。
しかし、今までに報瀬の流した涙を思うと、泣く事はできなかった。
報瀬が風呂から戻ると、部屋の扉のノブに紙袋がかけてあった。
中には、『夜食にどうぞ』と書かれたメモとサンドイッチが入っていた。
報瀬は紙袋を膝に載せると、しばらく階段を見つめた後、部屋に入った。
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