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襲来

 

2083年5月 東京中央国際ホテル

 大久保(いつき)は、ホテルの一室でテレビから流れた緊急速報に動きが止まった。どのチャンネルも夕方のニュースから緊急特別番組に変わっていた。

 『アメリカ消滅の危機!核使用か!』

 何かのドッキリかと思うようなタイトルに、かえってとてつもない真実味のある恐怖を感じた。

 すぐにスマホを手にすると、上司に電話をかけた。

 『おかけになった番号は、現在電源が切られているか、電波の届かない...』

 大久保はいったん電話を切ると、今度は仕事場である大学にかけ直したが、呼び出し音すら鳴らない状態だった。

 「どーなっているんだ」

 大久保はスマホの画面を見ながら、数日前のことを思い出していた。


 アメリカ州立マルスタット大学動物行動解析学教室

 大久保は慌てた様子で教授室のドアをノックすると、奥からの返事と当時にドアを開け部屋に飛び込んだ。

 「教授、予定を変更して僕も行きます」

 動物行動解析学教室教授のロバート・モルランは、昨日ネバダ州の砂漠地帯に突如現れた未確認生物の調査に向かうための準備の最中だった。

 「また、日本人の悪いところが出たね、大久保」

 モルランはカバンにビデオカメラを詰め込むと、振り返って大久保を見た。

 「ちゃんと休暇を取ったのだから、仕事のことは忘れてしっかりと楽しみなさい」

 大久保は友人の結婚式で日本に戻るために、明日から1週間ほど休暇を取っていた。

 「しかし...」

 「私一人で大丈夫。今回の調査は軍と一緒だから、運転手もいらないからね。そのかわり、休暇が終わったらたくさんのデータの解析が待っているよ」

 モルランは大久保に笑ってみせた。


 大久保はもう一度モルランに電話をかけてみた。しかし結果は同じだった。

 テレビの緊急速報は、上空からの映像を流していた。それは所々で火の手が上がり黒煙でかすむ崩壊したビル群だった。テロップではニューヨーク上空と出ていたが、とても信じがたい光景だった。それもすぐに映像は途切れ、何度も同じ映像の再生を繰り返していた。十分な情報が入って来ないのは、それだけ現場が混乱しているのだろう。

 「緊急速報です」

 急に画面がキャスターに変わった。

 「アメリカ大統領は、未確認生物に対して核の使用を許可しました。繰り返します...」

 そのとき大久保のスマホにメールの受信を知らせる音が鳴った。

 「そうか、メールで」

 大久保はモルランにメールをしようとソフトを立ち上げた。すると、今届いたメールはモルランからだった。

 すぐにメールの内容を確認する。

 『データをクラウドにアップした。すぐにダウンロードし解析を頼む』

 短い文章に、どれだけ緊急事態なのかが十分すぎるほど感じられた。

 大久保はパソコンを立ち上げ、すぐに研究室のクラウドにアクセスした。しかし、接続を試みるメッセージが何度も表示されるだけで、つながることはなかった。

 メールの送信時刻をみると8時間以上前だった。

 「これが届いたのは、奇跡に近かったってことか」

 大久保は別のサーバーにアクセスするためにキーボードを叩き始めた。

 万が一のバックアップとして、研究室のクラウドにアップされたデータは、同時に日本のサーバーにバックアップされるようになっていた。

 「これか」

 日本のサーバーには何も問題なくつながり、モルランのデータが確認出来た。

 すぐにデータをダウンロードする。動画のデータのためにサイズはかなり大きく、ダウンロードにはしばらくかかりそうだった。

 その間も、大久保はモルランや大学に電話をかけ続けた。しかし、何度やってもつながることはなかった。

 テレビは、中国、ロシアでも核の使用が決定された、と伝えており、間もなく日本政府から緊急会見があるとのことだった。

 それにしても情報が少ない。SNSで現地の様子をアップする者がいても良さそうだが、まったくそんな情報は見当たらなかった。

 ダウンロードが終了した。

 大久保は椅子に座ると、ファイルを開いた。


 どれだけ時間が経っただろうか。大久保はのどの渇きを我慢出来ず、よろよろと立ち上がると冷蔵庫から水のペットボトルを取り出し一気に飲んだ。そして、しばらく考えた後、スマホを手に取りアドレス帳を検索した。

 「これは、自分ひとりで抱えられるものではない」

 そう思いながら、少し震える手で電話をかけた。

 「出てくれ、篠原」

 



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