その先へ
2086年1月 神奈川県 国防省統合軍参謀本部 会議室
「その後、シャフトからの新たなケルベロスの出現は見られません」
統合軍大佐 篠原大輔は、会議室正面の大型モニターの左に立ち説明を始めた。
モニターの右には統合軍本部長 大川平蔵が座り、モニターに向かい合う長めのテーブルには、NCBM部隊総司令 笹村信幸少佐、そして独立遊撃部隊部隊長 古川徹大尉が座っていた。
「先日のケルベロス殲滅直後より、シャフト内にミュー粒子での位置情報を備えた観測用ドローンを大量に投入しており、シャフト内のデータを集めているところです」
モニターにはシャフトの一部が3D画像で表示された。
「リアルタイムで観測を行いたいところですが、地下深くはGPSと同様に電波の問題がありますので、ドローン3機を1組として互いにデータのバックアップを取りながら観測させています。ケルベロスの襲撃などトラブルがあった場合、なんとか1機でも戻ってきてくれればデータの解析が行えます」
「解析までにはかなりの時間がかかるな」
大川は最低でも2ヶ月はかかるだろうと予想した。
ケルベロス殲滅後、誰もがシャフトの破壊を行うものだと思っていた。そして、大川もそのつもりだった。しかし、突然野嶋がシャフトを保存したいと連絡してきた時は驚いた。その時の野嶋は、何か大きな自信を持っているように感じ、大川はすぐに作戦を変更したのだった。
今となれば、それは正解だったと大川は感じていた。
篠原はさらに話を続けた。
「遊撃部隊のパイロットによって回収されたケルベロスの卵ですが、訓練施設で孵化、その後研究所に輸送、現在大久保教授がリーダーとなり形態学的なデータを取り始めているところです」
モニターの映像が、ケージの中のケルベロスの幼体に変わった。
「今もその幼体が周囲に危害を加える危険性はないのだね」
大川が確認のために聞いて来た。
「現在のところ全くその傾向は見られません。また、どこかでケルベロスの活動が活発になったとの報告もありませんので、幼体を探して取り返すと言ったこともないと思われます」
篠原は訓練施設で梅原たちが幼体に接触したことをこの席で話すべきか迷ったが、映像は上がっているので必要なしと判断した。
一通りの説明が終わり、篠原は頭を下げた。
「それでは、最後に私の方から・・・」
大川が話し出すと篠原は自分の席に下がった。
「滋賀県の訓練施設は、すべて研究所の野嶋所長の管轄下に入り、独立遊撃部隊の本拠地となる。また、統合軍NCBM部隊は長野県に現在建設中の基地に、訓練施設と一緒に統合される」
これで本格的な部隊の運用が始まる。
「野嶋所長には先日の戦闘での機体の負荷データを確認してもらっている。特に特殊機体からの構造体のデータはいずれは軍のNCBMにフィードバックされるだろう。以上だ」
九州のシャフトから出現したケルベロスを殲滅したことで、その戦果に皆が喜びで湧き上がった。
しかし、それは単に一つの戦いが終わっただけで、全ての終結ではなかった。
何も見えない暗闇を手探りで進んでいた先に、わずかに明かりが見えたような状態だと言える。
明かりの先に進むには、まだまだやらなくてはいけないことが山のように待ち構えていた。




