新しい機体
滋賀県山間部 統合軍NCBM訓練施設格納庫
2台の大型専用ストレッチャーには、それぞれNCBMが仰向けに固定されていた。一機は左腕が切断されており、もう一機は装甲の損傷が激しく両足が切断されていた。
「よし、これで2機のストレージは完全にリセット出来た・・・」
損傷の激しい機体のコクピットの中で、大森は端末のケーブルを抜いた。
「データの転送をするわけじゃないから、バックアップは必要ないって上田さん言ってたけど」
NCBMのAIはパイロットの戦闘データを学習し、それによってパイロットの操作を先回りしてラグを少なくして動くようになっていた。つまり戦闘データの蓄積がNCBMの戦闘能力を上げることに繋がるのだ。
「せっかくのデータなのに、どうしてなんだろ?」
大森はそんなことを考えながらコクピットから這い出した。仰向けになっているコクピットから出るのはかなり重労働だった。
「こっちから先に搬出お願いします」
大森は損傷の激しい機体を指差し、牽引車の作業員に告げた。
作業員は牽引車をバックでストレッチャーの牽引フックにつなげると、ゆっくりと搬出作業にかかった。
「え~、ひょっとして」
次の作業のためタブレット端末を確認する大森の後ろで梅原の声がした。
「梅原君、いいの?こんなところにいて」
大森は振り返りながら言った。
「ここから運び出すなんて、廃棄ですか?」
梅原は肩を落としながら、運ばれていく自分の機体を見上げていた。きっといつものように大森がここで治してくれると思っていたので、ここから出てゆくからには廃棄としか思い浮かばなかった。
「違うよ。梅原君の機体も市ノ瀬さんの機体も統合軍で整備され、そこの部隊で使われることになったったんだよ。まぁ、うちで治してから送ってもよかったんだけど、次が待っているからそっちを優先しろって井桁主任が気を遣ってくれてね」
大森はそう言うと、ニコッと笑いながら運ばれていく梅原の機体と逆の方向を指差した。
梅原が大森の指す方向を見ると、そこには真新しい2機のNCBMが作業用ハンガーに立った状態で固定されていた。
すると、手前の機体のコクピットの位置から水瀬が顔を出した。
「大森先輩。これコクピット入ってないですよ」
「コクピットはこれからだから、それまでダミー使って調整してみて」
「はい」
水瀬は梅原に気付き手を振ると、再び本来コクピットのある位置に潜り込んだ。
「あれが二人の新しい機体だよ」
大森の言葉に梅原がNCBMに近づこうとした時、後ろで市ノ瀬の大きな声がした。
「梅原君、もう時間だよ。遅れちゃう」
「あ、うん」
梅原は新しい機体を早く見たいと言う気持ちを押さえ込んで、大森を見た。
「また今度ゆっくりみさせてください」
「そんなに焦らなくても、これから先ずっと付き合うんだから」
大森の言葉を聞いて安心した梅原は、市ノ瀬の待つ格納庫横の廊下へと走って行った。