ふたり
和歌山県山中上空
梅原と市ノ瀬のNCBMを乗せた大型輸送機は、軍の輸送機が墜落した現場近くに差し掛かっていた。
NCBM専用の大型輸送機は、操縦席の後ろに指揮のためのやや広いスペースが設けられていた。
そのスペースの前方上部には5台のモニターが備えられており、ケルベロスの位置情報、NCBMのコクピット、パイロットの生体情報などを映している。
指揮スペースの右側のいくつかのモニターに囲まれたオペレーター席には上田が座っており、左側には横の壁面のたくさんのモニターに向かって大森、水瀬が座っていた。そして最も後部の中央には、全体を見渡せるように古川の席があった。
「映像データを確認しました。今までの倍近い高さの跳躍をしている感じですが」
古川は目の前のモニターに連続再生される映像を見ながら無線の繋がる笹村に言った。映像と会話音声は梅原たち全員に共有されていた。
「間違いない。ケルベロスがいることは確認していたので、通常での安全高度をとっていた」
「ケルベロス捕捉しました」
オペレーター席の上田が振り返りながら古川に伝えた。
モニターに拡大された映像には、倒された杉の木の間で太陽の陽を受けて背中が銀色に輝くケルベロスがいた。
「ケルベロスの確認ができました。あとは我々が引き継ぎます。ご苦労様でした」
「お願いします。しかし、くれぐれも注意するように。今までのやつとは段違いの気がする」
「了解しました」
古川はひとつ大きく呼吸をすると、上田を見た。
「大久保先生に連絡。危険個体のため我々の機体より上でデータ収集をするように」
「はい」
古川は二人のパイロットが映る上部モニターに視線を移した。
間もなくこの二人に出撃命令を出さなくてはいけない。
古川の脳裏には、訓練施設で部下を全滅させた時のケルベロスとの戦闘が恐怖とともに浮かんだ。
『あいつは通常よりも機動性に飛び抜けた個体だった。今回のはそれと同レベルなのか。いや、当時よりNCBMの性能は上がっているし統合軍のパイロットのレベルも上がっている。それが全滅した。だとすると、ケルベロスはさらに・・・』
モニターに映るパイロットはヘルメットをしてバイザーを下ろしているので表情の確認ができない。しかし、その中にいるのはまだ10代の高校生だ。
『俺は、今度は、子供までも・・・』
古川は自分の手が震えていることに気付いた。
『データだけを取り、あらためて作戦を立て直す方がいいのではないか。無理にこのまま戦闘に持ち込む必要はない』
古川は再び上田に目をやった。
「大久保先生のデータ収集までこのまま上空で待機」
「はい」
モニターのふたりもうなずいた。
その時、上田は梅原と市ノ瀬がパイロット同士の回線を使って話をしていることに気がついた。割り込んでその会話を聞くこともできたが、戦闘前に二人だけで話すことも必要かもしれないと思い、そのままにしておいた。
「武器って、ずっとこれなのかなぁ?」
「R-201カービンに似てるね」
「あたしずっとオルタネーター使ってたから、ついADSなしで撃っちゃう」
「え?訓練の時、ADSなしで当ててたの?」
「でも、出来るだけ使うように練習してた」
「当たればいいよ」
「で、今回はどーする? なんだかすごい相手みたいだけど」
「まず、相手の動きを見ないことには攻略法もわからないから、いつものやり方でまず僕がヤツの前方に出るよ。後ろから狙ってみて」
「でも、きっとそれは避けちゃうよね。そのあと、梅原君をそのまま追うか、それともあたしに来るか。でも大切なのは、その時のジャンプの飛距離も含めた攻撃パターン」
「普通に攻めてもダメだろうね」
「偏差撃ちしか当たらないような気がする」
「攻撃パターンがしっかり確認出来るまでは出来るだけやつと距離をとって、僕たちもお互いに近づき過ぎないように注意しよう」
「最後は格闘になるのかなぁ」
「リロードが間に合わなければ、迷わず殴る」
「あはは、そーだね」
市ノ瀬は急に黙り込んだ。
きっととてつもない恐怖で押し潰されそうになるのを必死で耐えているのだろう、梅原は市ノ瀬の気持ちを思った。
しかし、それは梅原も同じだった。
初めて戦闘に出た時は、何もわからない不安と恐怖。そしてその後は、戦闘を経験する毎に蓄積されていく恐怖。
『出ちゃえば忘れるんだけど・・・』
気付くと、操縦レバーを握る手に力を込め必死に震えを止めていた。




