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メタボ


広島県 山間部

 大久保の乗ったチルトローターのVTOLは、アカマツの伸びる山林の上空をケルベロスから数キロの距離をとり、その移動速度に合わせてゆっくりと飛行していた。少し前方にはケルベロス追撃部隊の大型輸送機が見える。

 ケルベロスの通ったあとの山肌は木が倒され筋状になっている。ケルベロスは5体、それぞれ数十メートルの距離をとっていた。

 大久保が観察を開始してからすでに30分ほどが経とうとしていたが、ケルベロスに目立った動きはなかった。

 ただ一直線に移動をしているように見えるケルベロスは、他の個体の動きを気にする様子は全くなく、5体ということで群れの動きを期待していた大久保は少しがっかりしていた。

 「大久保先生、ケルベロスの移動方向には集落があります。そろそろ攻撃しないと集落を巻き込んでしまうとのことです」

 VTOLの機長がシートから振り返り、後部座席でモニターを見ていた大久保に言った。

 「こちらは構いません。無理言って申し分けありませんでした」

 「了解しました。そのように伝えます。攻撃中の記録も撮りますよね」

 「はい、攻撃開始と同時に記録用のドローンをあげます」

 大久保はそう言いつつヘッドセットをつけるとノートパソコンを持ち、ドローンの準備のために後部格納庫へと向かった。

 格納庫には1メートル四方ほどのコンテナが2つあり、その中には上下に2台のドローンがそれぞれ収まっている。

 大久保はパソコンを開くと4台それぞれのプログラムを確認していった。攻撃開始と同時に4台のドローンは放たれ、連携したプログラムによって4方向から攻撃対象を追うことになる。

 『攻撃開始命令出ました!』

 ヘッドセットのスピーカーから機長の声が響いた。

 「ドローン出します」

 大久保の声に合わせて、スタッフが格納庫側面のハッチを開いた。一瞬、機内の空気が外に流れ出す。大久保はパソコンを抱え、吸い出されないように身構えた。

 空気の流れが収まるのを待って、大久保はパソコンからドローン射出の信号を送った。

 コンテナから数秒間隔でドローンが射出され、空中で4つのローターを展開するとプログラムによる自動飛行になり、ケルベロスのいる方向へと勢いよく飛んでいった。

 


 『攻撃開始!BM-005投下』

 5体のケルベロスを追うケルベロス追撃部隊の大型輸送機の側面にあるゲートが開き、そこから2機のBM-005が射出された。

 ケルベロス追撃部隊とは、ハナレのケルベロスが出現した時にBM-005でもってそれを殲滅する臨時の専門部隊だった。

 BM-005はBM-001のアップデート版でCPU等の冷却機能の強化とソフト面での改良がなされた機体だった。ハナレの場合、出現する個体数が少なく戦闘時間も短いため旧機体のバイオマシンでも十分対応が可能だった。

 「BM2機へ、フォーメーションは任せる。好きにやってくれ」

 「メタボ1、了解」

 「メタボ2、了解」

 BM-005になっても冷却機能強化のために相変わらず機体腹部は膨らんでおり、この部隊では機体のあだ名である(メタボ)を、コードネームとして使っていた。

 アカマツを潰しながら着地した2機のBM-005は、数回ジャンプを繰り返しケルベロスの集団に迫った。

 「一番後方の1体から行くぞ」

 「メタボ2、了解」

 メタボ1は大きくジャンプし、最高地点で機体が一瞬静止したタイミングでライフルのトリガーを引いた。

 直撃を受けた一番後方のケルベロスは、撃たれたことに気付くことなく霧散した。

 攻撃に気付いた他の4体は、一斉にメタボ1に飛びかかる。それに合わせてメタボ1は後方にジャンプして距離をとった。すかさず、メタボ2がメタボ1に一番近いケルベロスを攻撃。霧散。

 「右を狙う。そっちは左を」

 2機のBMは、機体をケルベロスに向けながらジャンプすると、上空で静止したタイミングでほぼ同時にトリガーを引いた。

 メタボ1の攻撃を受けたケルベロスは炸裂弾の爆発とともに霧散。しかし、メタボ2は撃った直後、もう一度トリガーを引いた。

 爆発、霧散。

 「すみません。ミスしました」

 「いや、こちらも外すところだった」

 2体のケルベロスを撃破したが、お互いに何か違和感があった。トリガーを引いた瞬間にケルベロスがすでに回避行動をとっていたように感じた。

 「機体の反応が鈍いのか? 残り1、こちらが引きつける」

 「了解」

 メタボ1は残った1体のケルベロスの正面にジャンプすると、ケルベロスの攻撃を誘った。同時にメタボ2がケルベロスの後方に回り込む。ケルベロスが素早くジャンプしてメタボ1に襲いかかった。

 ドウッ

 メタボ2のライフルが発射された。

 しかし、トリガーを引いた時にはすでにケルベロスの姿はそこになかった。

 「はずした!」

 メタボ1のモニターに映る敵の位置が上を示している。

 「上か!」

 ケルベロスは撃たれた瞬間にもう一度大きくジャンプしていたのだった。

 「くそっ」

 メタボ1は右腕に持ったライフルで、落下しながら右腕の爪を突き立てるケルベロスに殴り掛かった。

 ライフルの銃身がケルベロスの頭部に当たるのと、メタボ2の撃った弾薬が爆発するのは同時だった。

 「申し訳ありません。またはずしてしまいました」

 メタボ2の落ち込んだ声がヘルメットに響いた。

 「いや、俺も一瞬ケルベロスを見失った」

 メタボ1のパイロットは今のケルベロスの動きを回想したが、感じる違和感の結論は出なかった。

 『そう言えば今回の戦闘はいつも以上に戦闘データが記録されているはずだ。機体側にしろケルベロス側にしろ何か答えは出るだろう』

 そう考えて輸送機に無線をいれた。

 「こちらメタボ1、目標消滅、任務完了。機体の回収を頼む」



 「間違いなさそうだ」

 ドローンからの戦闘の映像を見ていた大久保は、ケルベロスの動きの変化に確信を持ち始めていた。

 


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