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接続率


2085年5月 山梨県 国防省バイオエレクトロニクス研究所所長室

 給湯室から出てきた速水香織は、両手に持っているコーヒーの入ったカップの一つを野嶋高雄のデスクにおいた。そしてそのまま応接セットに行くとテーブルに自分のカップをおき、かわりに近くのファイルを持った。

 「きょうは足取りが軽そうだね。気のせいかな」

 野嶋はカップを取ると口に運び一口飲んだ。

 「いいデータがとれたんですよ」

 速水は再び野嶋のテーブルに行くと、勘が当たってうれしそうな野嶋にファイルを渡した。

 野嶋はしばらくファイルを目で追ったあと、なるほどとつぶやきながら速水に視線を移した。

 「統合軍選抜組の接続率60%前後、操作率100%。これは問題ないな。接続率が40%くらいあればアシストAIが十分サポートしてくれる。次のフェーズに移ってもいいだろう。問題は少年の方だが、接続率100%、しかし操作率1%。君はこれをどう見る?まぁ、君がうれしそうなのは選抜組のデータじゃないだろうが」

 「はい。わたしはエクセレントと評価しました」

 速水は自信を持って続けた。

 「接続率100%というのはシステムが自分自身として認識したようなものです。操縦するという伝達のラグがない状態で動かす、いや動くことが出来るはずです」

 速水は少し考えて。

 「報瀬(しらせ)ちゃんもそうでしたし...」

 速水が見つめる先の野嶋は、速水がそう言うことをわかっていたかのように目を閉じて考えていた。

 速水は窓の外の景色に視線を移し、おそらく野嶋の考えている同じ日のことを思い出していた。

 窓から鳥のさえずりが聞こえる。時折ひときわ大きな鳴き声が混ざる。雛が親鳥に餌を催促しているのだろう。

 鳴き声が止む。

 しばらくしてまた鳴き声が大きくなる。

 雛鳥を育てるために、親鳥は何度も餌を運ぶ。

 何度も何度もそれが繰り返される。

 いつか雛鳥が巣立ちするまで。ただ無心で。


 長い時間が過ぎたような気がした。

 「コーヒー冷めちゃいましたね、入れ直します」

 速水が言うと同時に、野嶋は目を開いた。

 「よし、次のフェーズだ。選抜組と一緒に行ってもらおう」

 「了解しました」

 速水は野嶋のカップをとると、給湯室へと向かった。




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