表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/65

迫りくるモノ


2083年6月 国防省バイオエレクトロニクス研究所 会議室

 真新しい会議室の窓は遮光されており、所長の野嶋高雄は壁に設置された大型モニターに流れる映像に見入っていた。所長の横には国防省統合軍中佐篠原大輔が座っている。

 「巨体にも関わらずこんな素早い動きができるなんて、これは生物なのですか?」

 野嶋はモニターから目を外さずに、モニターの横に立っているマルスタット大学動物行動解析学教室準教授大久保樹にたずねた。

 モニターには、長い尾のようなものを持つ4つ足の黒い物体が、5階建てほどのビルをジャンプで軽々と飛び越える映像が流れていた。

 「わかりません。死体どころか、組織の一部すら採取出来ていないのです」

 「倒せないということですか?」

 野嶋は大久保に視線を移した。

 「これを見てください」

 大久保はそう言うと、すぐ横のスタンドにおいてあるノートパソコンを操作しモニターの映像を変えた。

 流れ出した動画は遠距離から望遠で撮ったもので、黒い物体の動きがやっと確認出来るものだった。するとすぐに黒い物体に背後から戦車の砲弾が命中した。

 次の瞬間、野嶋の表情が変わった。

 「もう一度、拡大して観れますか?」

 「はい。拡大して、さらにスローにしてみます」

 野嶋は少し身を乗り出し、モニターを凝視した。

 コマ送りに近いスピードで動画が再生される。ゆっくりと砲弾が黒い物体に近づき、炸裂。その直後、物体は黒い霧状になり、広がり、すぐに消滅した。

 「生物ではないのか」

 野嶋はなぜこのようになるのか全く理解出来ない様子でつぶやいた。

 「しかし、物理的な攻撃によるダメージは可能ということか」

 横に座っている篠原に向かって言うと、篠原はちょっと困った表情をし、大久保に目で助けを求めた。

 「その件に関しましては、少々厄介で、次の動画を観てください。先ほどの動画の数分あとの記録です」

 大久保はそう言いながらパソコンを操作すると、少ししてモニターに新しい動画が流れ出した。

 先ほどと同じ位置から撮影したもので、戦車から黒い物体に向けて砲弾が放たれた。同じように命中するかと思われたが、黒い物体はそれを軽々と避けた。

 「この動画だけだと、偶然避けたようにも見えますが」

 大久保は続けて何か言いたげだったが、客観的な事実のみを説明するためそれ以上話を続けるのをやめた。

 「いや、何かお考えがあるのなら、おっしゃってください」

 野嶋は大久保の気持ちを察し、話を続けるようにうながした。

 「たくさんの記録を残してもらえたので、それをすべて観た上でのあくまでも自分の感じた印象なのですが、どうやら意図的に避けているのではないかと思われます。また、ミサイルなどの爆発物を不発化しているような行動もみられます」

 野嶋はその行動がどのようなものなのか想像したが、あまりに現実とかけ離れていて考えられなかった。

 「それと、ショッキングな映像なのですが」

 大久保は次の映像を出すためにパソコンを操作した。

 モニターにビルの間を逃げようとするたくさんの人たちの映像が流れ出した。小さな子供や、ペットの犬も映っていた。固定された画角はどこか街角の監視カメラのようだった。

 その直後、黒い物体が人々の背後に映像を揺らせながら着地すると大きく口を開いた。次の瞬間、周囲のすべての生物が一瞬霧状になったのち消滅した。

 「どういうことだ?」

 野嶋は自分の考えの及ばないその映像にそんな言葉しか出なかった。

 大久保はその後も『事実を知っていただきたくて』と付け加え、人々が黒い物体の前で次々と消滅していく別の映像をいくつも流した。

 公園で遊ぶ子供達の前に現れた黒い物体、子供たちを守ろうと駆け寄る母親、それも一瞬にして消滅した。

 動かなくなった車から出ようとドアを開けるスーツ姿の男性。外に出た直後、跡形もなく消えた。写っている周囲の車の中にももう誰もいなかった。すぐに黒い物体がカメラの前を通り過ぎた。

 小学校の教室の監視カメラ。画面の右上に学校の名前が入っている。突如、大きく窓が破壊され雪崩れ込む黒い物体。小学生は逃げる間もなく消滅した。

 どの映像も、黒い物体が現れた後には全く生物が残っていない状態になっていた。

 もしもこれが噛みちぎられながら食べられる映像なら、とても見ていられるものではなかっただろう。

 会議室は重苦しい空気に包まれた。

 「本来なら、しっかりとした結論を持ってお伺いするべきだったのですが」

 「ここからはわたしが説明します」

 大久保の話を割って、篠原が話し始めた。

 「大久保はまだ解析途中だったのですが、わたしが緊急案件と判断して参謀本部長に話を持っていきました。本部長も緊急性を理解し、統合軍内での正式な発表は解析結果が出てからでもかまわないが、何よりも野嶋所長にはすぐにでも伝えるように、とのことでした」

 「つまり...」

 腕を組み考え込む野嶋の表情が硬くなった。

 「これに対抗出来るようなバイオマシンを早く造れ、ということか」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ