第五章 逆転の時
「お嬢様……! 大変な事になりました……!!」
私は慌てた様子を装って、セシリアの私室の扉を勢い良く開いた。
「エリザベスがお嬢様の今までの所業を王宮に報告したようです……!!」
「そんな……!? どういう事……!?」
つい先日、セシリアはとうとうエリザベスを階段から突き落とした。
大怪我を負い気を失った──フリをしたエリザベスは、王宮に匿われるとセシリアから苛めを受けていた事を国王陛下に進言し、証言を提出したのだ。
どうしてエリザベスが重症のフリが出来たかと言うと、私がセシリアに階段から落とされる事を事前に教えて置いたからだ。
私は知っていた。
セシリアがエリザベスを階段から突き落とす事と。
エリザベスが本当は平民ではなく、王族の遠縁の親戚で、国王陛下の寵愛を受けた隣国の姫君であると言う事を。
「……ちょっと待って……どうしてそんな事が分かったの?」
「私が密かに調べたのです……! 証拠はすでに国王陛下に届けられています」
これは半分嘘で半分真実だ。
エリザベスはセシリアからの苛めや悪行の証拠をかき集め、王宮に提出している。
ただし、その事を私が知っているのは密かに調べたからではない。
私がエリザベスに助言し、王宮に証拠の提出と証言をするようアドバイスしたからだ。
セシリアは私の報告に驚いた顔をしたが、その形相を直ぐ様怒りへと変える。
「あなたが調べたですって? なぜ直ぐにわたくしに報告しなかったの?」
セシリアの声には怒りと不安が混ざっていた。
「お嬢様。私はあなたの為を思って行動したのです。ですが……もう手遅れかも知れません」
私はそう言って、眉を下げる演技をする。
その時、王宮からの使者がセシリアの私室へと到着した。
「セシリア・ルシフェル・アストレア。お前を隣国の姫君、エリザベス・カーライル様殺害の罪で逮捕する!」
「姫君!? 何の事よ!!」
「捕らえよ!」
「離しなさい! わたくしを誰だと思っているの!? 無礼者!!」
王宮からの使者達がセシリアを捕らえ、縄で後ろ手に縛り上げる。
「リゼール!! 助けなさい!!」
セシリアが助けを求めた私のもとへ、使者がやってきて、深々と頭を下げた。
「リゼール・グレイ様。あなた様のお陰で姫君の命が救われました。ありがとうございます」
「リゼール……あなたは……」
私はセシリアに向かって口の端を吊り上げ、ニヤリと笑みを浮かべる。
「お役に立てて光栄です、お嬢様」
そして、元主人へと深々とお辞儀をしたのだった。
その後、悪役令嬢セシリアは王宮の尋問室へと連行され、罪が問われる事となる。
ヒロインであるエリザベスを利用し、主人であるセシリアを騙した私もまた──悪役令嬢と言えるのかも知れない。