第三章 ヒロインとの対決
エリザベス・カーライル。
『薔薇の国の王子たち』のヒロインであり、ゲームの主人公。
平民出身でありながらも文武両道で、セシリアの苛めに遭いながらも逆境を乗り越えていくタイプ。
私は彼女を敵に回す訳にはいかなかった。
何より、ゲームをプレイした事ある私はエリザベスの正体を知っていた。
その事は、後々話す事としよう──。
「あなたが、エリザベス・カーライル様、ですね」
エリザベスが転校してきて数日後、私は彼女に声をかけた。
もちろん敵対する為ではなく味方に引き入れる為だ。
「私はリゼール・グレイ。セシリア・ルシフェル・アストレア公爵令嬢の専属メイドをしています」
私はカーテシーをして、エリザベスを安心させるような柔らかな微笑みを称える。
「あなたのお噂は予々聞いております。とても勇敢な方だと。エリザベスさんとお呼びしても良いですか?」
最初は警戒していたエリザベスだったが、私の笑顔を見た途端頬をピンク色に染めてぽーっとした。
かと思うとハッとして我に返り、両頬に手を当ててそっぽを向く。
「え、ええ! どうぞ! 好きに呼んでくださいませ!」
「あ……ありがとうございます。私の事は気軽にリゼールとお呼びください」
「で、ではリゼール様……どうして私に声をかけてくださったのですか?」
くださったとは……少々大袈裟な気がするが……。
まぁ、今はそんな事どうでも良いか。
「エリザベスさんもご存知かも知れませんが、私の主人セシリア様は悪名高い方です」
セシリアの傍若無人は今や平民にまで轟いている。
「でも私は……常々セシリア様の行動には疑問を感じていました」
さすが悪役令嬢と言うべきなのか、セシリアは転校初日から早速エリザベスへの苛めを開始していた。
今日、私がエリザベスに声をかけたのも、本来ならばセシリアの苛めを遂行する為だったのだ。
私はセシリアの言う事を素直に聞いて、エリザベスを苛める気など毛頭無いけど。
「エリザベスさんを苛めるのはあまりに酷いと思います」
私はエリザベスに手を取り、優しく包むように握る。
「もしよければ私達でセシリア様の罪を正しませんか?」
エリザベスは一瞬驚いた顔をしたが、やがて深く頷いた。
「分かりました。協力させてください」
「ありがとうございます、エリザベスさん」
だがその頃、セシリアは私の行動に疑問を感じ始めていた。