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第一章 転生


 目覚めた瞬間、私には前世の記憶がある事に気がづいた。


 前世の私は、病弱な子供だった。

 病室から出ることが出来ず、毎日窓の外を眺める毎日。

 そんな時、暇潰しにでもと親戚のお姉ちゃんがプレゼントしてくれたのが『薔薇の国の王子様たち』と言う乙女ゲームだった。


 そのゲームの世界はとても華やかで、そして残酷だった。


 王子達が薔薇の冠と呼ばれるヒロインを奪い合う物語。

 その中でも特に有名なのが、才色兼備な悪役令嬢、セシリア・ルシフェル・アストレア。


 セシリアは、物語の中でも最も嫌われる存在だった。


 傲慢で、自己中心的で、ヒロインの邪魔をする為ならば何でもする。

 最終的には婚約者である王太子を取られたと言う逆恨みでヒロインを階段から突き落とし、国を追放される運命を辿るのだ。

 隠しルートでは最終的に処刑されてしまうらしい。


 ゲームを完全クリアする目前で、私は病に負けて命を落としてしまったが。

 どうやら、その乙女ゲーム『薔薇の国の王子たち』の世界に転生してしまったらしい。

 だが悲劇はここから始まる。

 私は悪役令嬢セシリアのお付きメイド、リゼール・グレイに転生してしまったようだ。

 リゼールは物語の終盤、セシリアに濡れ衣を着せられ命を落とす悲劇の運命を背負っている。


「……まさか本当に転生したなんて……しかもよりにもよってリゼール……」


 鏡に映る自分の姿を見て、私は思わず溜め息を漏らした。

 長いハチミツ色の髪に、エメラルドグリーンの大きな瞳。

 年齢はおそらく十五歳くらいだろう。

 制服にはアストレア公爵家の家紋が刺されている。

 リゼールは一応貴族の娘だが、下級貴族の為、セシリアの家に侍女として奉公に出ていた。

 部屋は広く、豪華だった。

 天井ではシャンデリアが揺れてキラキラと輝いており、壁には金の装飾が施され、窓辺には大きな薔薇の花が飾られている。

 しかし、その美しさの裏には、どこか閉鎖的な空気が漂っていた。

 それはきっと、逃れられない運命を、リゼールが背負っているから。


 上等じゃない。

 覚悟は出来てるわ。


 リゼールの身体は健康そのものだ。

 それは、前世では病弱だった私からすると喉から手が出る程欲しい身体だった。

 それこそ、若いまま死ぬなんて惜しいと思える程。

 前世で培ったゲームの知識があるれば、きっとこの運命を変える事が出来る筈。

 私はそう信じ、全力を尽くす事を心に誓った。


 ──コンコンコンッ


 ふとドアの向こうから、控えめなノックと声が聞こえてくる。


「お嬢様がお呼びです」


 私はゆっくりと起き上がり、ドアを開けた。

 通された先はセシリアの私室。

 そこには、気品溢れる淑女が優雅な佇まいで椅⼦に腰掛けていた。

 プラチナのような白銀色の髪に、海のように深い青い瞳。

 容姿は美しいが、その表情にはどこか冷たさが漂っている。


「……あなたがわたくしの新しいメイド?」


 私を見るその視線は、まるで何かを探るような、鋭いものだった。

 一瞬迷ったが、私は頭を深々と下げる。


「はい、お嬢様。私はお嬢様のお役に立てる事を、何よりの光栄と思っております」


 セシリアは少しの間、私を見つめていたが、やがて小さく笑った。


「……面白いわね、あなた。これからも宜しく頼むわ」


 私は胸の奥で、一つの決意を抱きしめる。

 前世では叶わなかった自由を、この世界で手に入れてみせるわ。

 その為だったら悪役でも、演じきってみせましょう。


 悪役令嬢のお付きとして──。


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