第45話 最期の微笑み
死刑の宣告から数日後――かつて華やかな祝祭に沸いた首都広場は、まったく異なる光景へと変わっていた。
広場の中央には、粗末な材木と鉄枠で組まれた処刑台がそびえ、その周囲には無数の人々が詰めかけている。王政崩壊の日、ここは歓喜と希望に満ちた場所だった。しかし今――「第二の革命」によって倒されたパルメリアの最期を見届けるために集まった人々の目には、怒りと悲哀が交錯していた。
早朝から詰めかけた民衆の間では、罵声と怒号が飛び交い、まるで処刑そのものを急微かのように声を張り上げる者もいた。
「死ね! 悪魔め!」
「我々の家族を返せ! 地獄で後悔しろ!」
一方で、かつての彼女を英雄と信じ、革命の象徴として崇めた者たちもまた、この場にいた。彼らの表情には、怒りとも悲しみともつかない複雑な感情が張り付いている。
民衆の激情と不安が渦巻く広場の外縁には、新政府の兵士たちが警備を固めていた。臨時政府の主導により、旧親衛隊や秘密警察はほぼ解体されたが、民衆の怒りは未だ収まらず、広場全体は、怒りと動揺が混ざり合う緊迫した空気に包まれていた。兵士たちは秩序を保とうと必死に呼びかける。
「押し合うな! 暴動は許されない! 処刑は法に則ったものだ!」
だが、民衆の怒りは凄まじく、制止の声は容易には届かない。曇天が広がり、まるで天までもがこの場の不穏な結末を見守っているかのようだった。
やがて朝日が雲間ににじみはじめた頃、護送車がゆっくりと広場へと到着した。馬の蹄の音が静かに響き、鉄格子の扉が開く。
中から姿を現したのは、両手を縛られたパルメリアだった。
ボロボロの衣服に身を包み、やつれた頬を晒しながらも、彼女は堂々とした足取りで処刑台へと歩を進める。その姿を見た瞬間、群衆から怒号と罵声、そして一部からは抑えきれないすすり泣きが湧き上がる。
だが、パルメリアは何も言わず、ただ目を閉じる。
(本当に、ここで終わるのね。……でも、もう何も怖くないわ。失うものなんて、もうないもの)
処刑台の上には、首を吊るための縄が用意されている。
しかし、パルメリアはそれを見ても、動揺することはなかった。代わりに、ふっと微笑む。
「……これが『革命の果て』ね。私が王政を倒したこの国が、私を裁く……。まあ、いいわ。最後まで笑ってあげる」
その言葉を聞いた群衆の中には、一瞬の沈黙が走る。だが、次の瞬間、再び憎悪の叫びが爆発する。
処刑台の下で新政府の要人――レイナー、ユリウス、クラリスがその光景を見つめていた。
そして、ガブリエルは広場の端に立ち、無言のままパルメリアを見上げている。表情は世界の終わりを見つめるような絶望に沈んでいた。
レイナーは拳を握りしめたまま、静かに目を伏せる。革命の終焉は、これでよかったのか――今もその答えを見出せずにいた。
(これは……正しかったのか? あの時、パルメリアは誰よりも輝いていたのに、どうしてこうなってしまったんだ)
ユリウスもまた苦々しく処刑台を見つめ、「もう引き返せない」と低くつぶやく。
(終わらせなければならない。でも、この結末が、本当に正しいものなのか……俺は、今でもわからない)
クラリスはうつむいたまま震える肩を押さえ、必死に涙をこらえていた。
(血を見ずに済む未来が、ほんの少しでもあると信じていたのに……。これが、あの頃、みんなで描いた夢の果てなんて……)
パルメリアは最後に、遠くを見つめながら静かに微笑んだ。
それはもはや、嘲笑ではなく、諦めでもなく――まるで、全てを受け入れた者の微笑みだった。
「ふふ……私が『悪役』だと言うのなら、それでも構わないわ」
(……これが私の結末。だったら、最後まで誇り高く――)
看守が大声で執行を宣言し、太鼓の音が高らかに鳴り響く。民衆の怒声と歓声が入り混じるなか、パルメリアは静かに目を閉じた。
だが、彼女の唇には、わずかに微笑みが残っていた――最後に、自らの運命を受け入れるかのように。
(私は最後まで笑い続けるわ。全てを失うとしても、それが私の選んだ道だから――)
パルメリアの最期の瞬間を前に、レイナーは瞼を伏せ、ユリウスは唇を噛み、クラリスは涙をこらえた。
そして、ガブリエルは――両拳を握りしめ、激しい吐息で今にも崩れ落ちそうなほどだ。彼は歯を食いしばり、微かな声でつぶやく。
「……申し訳ありません、パルメリア様……私は、あなたを守れなかった……」
それは、誰にとっても耐えがたく、決して救われることのない幕引きだった――
共に掴んだはずの勝利も、誓い合った未来も、全てが血と哀しみの渦へと沈んでいく。
そして今、止めようのない運命が、無情にも幕を下ろそうとしているのだ。




