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【プロトタイプ版】悪役令嬢、革命の果てに ~英雄と呼ばれた彼女が、処刑台に立つまで~  作者: ぱる子
第六章:独裁者の末路

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第43話 死刑宣告

 首都を揺るがした「第二の革命」は、独裁政権を崩壊させ、ついにパルメリアを捕らえた。彼女の支配から解放された民衆は歓喜し、ある者は涙しながら、ある者は拳を握りしめながら、つい昨日まで恐怖の象徴だった名を呼ぶ。


 パルメリア・コレット――王政を打倒し、共和国を築きながら、粛清と戦争によって独裁者と成り果てた「革命の英雄」。その末路を決する裁判の幕が上がろうとしていた。


 臨時政府の主導のもと、「革命法廷」が設置された。かつて貴族たちの集会所として使われていた大広間は、今や人々の怒号と(いきどお)りに満ちた民衆裁判の場となっている。

 戦争の傷跡を背負った人々の視線は、法廷の中央に立たされたパルメリアへ集中していた。そして、レイナー、ユリウス、クラリス、そしてガブリエル――革命の火を再び燃やしたかつての仲間たちも、無言でその場に立っていた。


 パルメリアは、縄で後ろ手に縛られ、法廷の中央に立たされる。白い軍服は泥と血にまみれ、かつての気高さは見る影もない。

 それでも彼女の目は鋭く、薄く笑みを浮かべながら、周囲を見渡した。それは全てを失い、深い絶望に沈んだ者の諦めにも似た笑いだった。


(ああ、結局こうなるのね。革命の英雄として国を築いたはずが、今はこうして吊し上げられている。王政を倒した時の誇りも、理想も、全てが崩れ落ちた――)


 レイナーは(かたわ)らでその姿を見つめ、唇を噛む。


(どうして……どうしてこうなったんだ。王政を倒したあの夜、パルメリアと語り合った未来は、こんな結末を望んでいたわけじゃないのに)


「被告人――パルメリア・コレット」


 群衆の喧噪(けんそう)を断ち切るように、静かで重い声が法廷に響く。


「貴殿は、国家反逆罪、大量虐殺、独裁的粛清の主導、さらには侵略戦争による戦争犯罪の罪により、本日ここで裁かれることとなった。これに対して弁明はあるか?」


 一瞬の沈黙。

 群衆の視線が突き刺さるなか、パルメリアはゆっくりと微笑んだ。

 それは皮肉とも、哀れみともつかない、(うつ)ろな笑みだった。


「弁明? ……ええ、そうね。私はただ、王政を倒して、国を守ろうとしただけ。それが罪になるなら……あなたたちは、何を正義と呼ぶのかしら?」


 その言葉に、民衆から怒号が飛ぶ。


「ふざけるな!」

「どれだけの人を殺したと思っている!」


 しかし、パルメリアはそれすらも意に介さず、淡々と続けた。


「裏切られたのは私の方よ……。こんな結果になったのは、あなたたちが私を見放し、私の革命を(ゆが)めたからでしょう」


 その声には、以前のような激情も狂気もなかった。ただ、虚ろな笑みとともに語られるその言葉が、かえって人々の怒りを煽った。


「結局あんたは王政と同じことをしたんだ!」

「お前がやったことを、誰が許すと思っている!」


 激情に駆られた叫びが飛び交い、裁判の場は騒然となる。


「静粛に」


 その低く、響くような声が空気を一変させた。ガブリエルは険しい顔でパルメリアを見つめ、続ける。


「パルメリア様……あなたが国を守ろうとしたことは、誰よりもわかっています。しかし、その方法がどれだけの人を苦しめ、どれだけの命を奪ったか――それを理解されているのですか?」


 パルメリアは彼の言葉に、わずかにまぶたを動かす。


「……理解? 私が? ふふっ……違うわよ、ガブリエル。誰も理解なんてできないのよ。私がどれだけの犠牲を払って、どれだけの苦しみを耐えてきたか、あなたたちにはわかるはずがないわ」


 彼女は(かす)かに笑い、肩を(ふる)わせる。だが、それはもはや狂気ではなく、疲れ果てた者が最後に残した、何もかもを諦めた微笑だった。


「それでも……私は、何も間違っていなかった」


 その言葉を聞いたレイナーは、拳を握り締める。


(パルメリア……君は最後まで……)


 クラリスも震える手で彼女の姿を見つめる。


「あなたの夢を信じた人もいました。私も、信じていました……」


 ユリウスは静かに目を伏せた。


「……王政を倒した時、君は確かに民衆の希望だった。それがなぜ、ここまで歪んでしまったんだ」


 誰もが、王政を倒した日のことを思い出していた。

 かつて、彼女が仲間たちと語り合い、共に未来を築こうと誓った日々を。


 パルメリアは肩をすくめ、目を閉じる。


「……まあ、いいわ。もう、どうでも」


 法廷は静寂に包まれ、民衆は固唾(かたず)をのんで見守る。

 そして、ついに判決の時が訪れた。


「被告人、パルメリア・コレット――貴殿の行為は、王政を超える圧政と恐怖をもたらし、この国を深い混乱と悲劇へと陥れた。その責任は極めて重大であり、これを看過することはできない。よって、本法廷は、被告人パルメリア・コレットに対し、死刑を言い渡す――」


 その瞬間、民衆のあいだから歓声とも怒号ともつかぬ声が響き渡る。だが、パルメリアは緩やかに微笑んだ。その笑みは、かつての狂気とは違う。


「……死刑? そう……これが、あなたたちの選んだ結末なのね。いいわ、受け入れてあげる」


 彼女の声は穏やかで、それがかえって人々をざわつかせた。


「ふふっ……でも、忘れないで。どうせ私が死んでも、どこかでまた血が流れる――革命なんて、そういうものよ……」


 乾いた笑いが漏れるが、その瞳はどこまでも虚ろで、燃え尽きたように冷たい。


「あなたたちの革命が、どんな国を作るのか……せいぜい、あの世から見届けさせてもらうわ」


 そのつぶやきとともに、彼女は静かに目を閉じる。

 全てを背負い、全てを失った彼女の運命が、この瞬間に決まったのだった。


 レイナーは歯を食いしばる。ユリウスは拳を握り締め、クラリスはそっと目を伏せた。

 そして、ガブリエルだけが、最後まで彼女を見つめ続けていた。


「……パルメリア様」


 ガブリエルの声は、これまでにないほど低く、沈んでいた。その響きは、長年にわたって抱え続けた忠誠と苦悩、そして今や拭いきれない後悔をにじませていた。


 その言葉に、パルメリアは微かに眉を動かす。


「私は、あなたを守ると誓いました。あなたのために剣を振るい、あなたのために命を賭けると――。だが、結局……私は何も守れなかった。あなたも、国も……そして、自分自身すら」


 その声は、騎士としての誇りを失った者の、痛ましいほどの慟哭(どうこく)だった。

 だが、パルメリアは何も答えなかった。

 虚ろな瞳でただ彼を見つめるだけで、言葉はどこにも見つからない。もはや、彼女には返すべきものなど何も残されていなかった。

 ガブリエルは、最後の未練を断ち切るようにゆっくりと目を伏せる。

 そして、パルメリアは沈黙のまま、静かに瞳を閉じた――


 こうして、裁判が終わると同時に、パルメリアは拘束され、死刑執行の準備が進められる。彼女が築き上げた王国は完全に崩壊し、その名は人々の記憶に永遠に刻まれることになる。

 法廷を後にする群衆の中で、ただかつての仲間たちだけが、深い悲しみを胸に抱えながら、その場を立ち去った。


(……これが、私たちが目指した革命の終わりなのか……)


 誰もが明確な答えを持てないまま、夜明けが訪れようとしていた。しかし、その光の下で、誰もが問い続ける。革命とは何か。正義とは何か――。崩れ去った理想の残骸の上で、答えのない問いだけが静かに残された。

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