第41話 夜明け前の突入
夜明けを告げる薄白い光が、地平を照らすにはまだ遠い。――しかし、重く暗い空気を切り裂くように、大統領府には一斉蜂起の轟音が押し寄せていた。遠くからは火砲の閃光や銃声がこだまし、怒号と悲鳴が不気味な合唱を織り成しながら、闇の帳をまるで赤い焔で塗り替えている。
瓦礫を踏み越えて進む民衆の瞳には、長き恐怖からの解放を願う激しい光が宿り、かつて王政を倒した革命軍の姿が再び息を吹き返したかのようにも見えた。火花が散るごとに燃え上がる炎は、終焉を予兆するかのように辺りを明滅させている。
かつて静寂に包まれていた大統領府も、今や押し寄せる戦意と焦燥にのまれ、夜の闇全てが悲鳴を上げているかのようだ。やがて東の空が微かに白み始めようとしているが、この激しい争乱をかき消すほどの安寧は、まだ訪れそうにない。
レイナーは民衆を導くように歩みを進めながら、懸命な声で訴えかけた。
「みんな、落ち着いて! 無用な流血は避けるんだ。我々の目的は、独裁を止め、この国を取り戻すこと――決して破壊や復讐が目的じゃない!」
だが、その勢いはとどまることなく、怒りに駆られた民衆の一部は外壁をよじ登り、親衛隊と衝突していく。閃光が走り、悲鳴が混ざり合うなか、ユリウスは瓦礫を踏み越えて民衆を率いた。
「ここまで来たんだ……一気に行くぞ! 大統領府を制圧する!」
その瞬間、頑丈な鋼鉄の門は激しい衝撃を受けて崩れ、押し寄せた群衆と革命軍の兵士がなだれ込む。親衛隊が応戦しようと銃を構えるが、すでに士気は低く、加えてガブリエルが指揮する軍部の兵たちが背後から押さえ込む形となった。
建物の中へ駆け込むと、広々とした廊下には家具や破片が散乱し、一部の灯りが割れて火花を散らしている。ときおり聞こえる爆発のような響きと銃声が、夜の静寂を破り続ける。
レイナーは息を切らしながら先頭を進み、廊下の奥で怯えるように身を潜めていた政府職員を見つけた。
「大丈夫、ここから脱出するんだ。――案内するから、急いで!」
激しい叫び声と慟哭が響き渡るなか、クラリスも追いつき、負傷者に応急処置を施しつつ前へ進んでいく。
階段を駆け上がり、重厚な扉が視界に入った瞬間、そこには親衛隊の一部が必死に抗戦しながら立ちはだかっていた。銃を構えた彼らは扉付近の家具や壁を盾に、革命側へと激しい射撃を浴びせる。
「ここを通すわけにはいかない!」
親衛隊の一人が叫び、鋭い弾丸が階段付近をかすめる。だが、ユリウスやガブリエルの隊は正面から一気に押し寄せ、火花や怒号をものともせず果敢に突入していく。
「押し返すんだ、ここが踏ん張りどころだ!」
ガブリエルの部下が声を張り上げると、前衛の数名が一斉射撃で親衛隊を牽制し、その隙に味方が扉の脇へ取りつく。銃声が廊下にこだまし、親衛隊の動きに焦りが募る。
「もうやめろ! これ以上、戦って何になるんだ!」
ユリウスが声を張り上げるが、親衛隊は動じない。やがて弾切れを起こした彼らは短剣を抜いて最後の抵抗を試みるが、人数と士気の差は明らかだった。正面から波状的に攻め込まれるうちに、じりじりと後退せざるを得ない。
「ふざけるな……! 閣下のために……ここを死守する!」
必死の反撃を仕掛けようとするものの、圧倒的な勢いで迫るガブリエルたちを前に、次第に力尽きる者が続出する。やがて親衛隊は武器を下ろしてうなだれ、散り散りに降伏を示した。
「司令官、今が突入の好機です!」
ガブリエルの部下がそう告げると、抵抗していた兵士たちは完全に戦意を失い、扉前から身を引く。廊下には硝煙が漂い、倒れ込む者の荒い息だけが響いている。
ガブリエルは短く息を吐き、力強くうなずくと、ユリウスとレイナーが視線を交わして扉に手をかける。
「行くぞ……パルメリアを止めるんだ!」
かくして、正面で激しく抵抗していた親衛隊を突破した革命軍は、満身創痍のまま大統領府の奥へと足を踏み入れる。
そこに待ち受けるのは、もはや狂気に囚われたパルメリア――。互いに痛みを抱えたまま、だがなお深い覚悟を胸に、扉の向こうへ一歩ずつ進んでいく。
夜明け前の闇を切り裂く決断の足音が、廊下に重く響く――二度と後戻りできない覚悟を示すかのように。




