第35話 第二の革命
国中に広まりつつある反パルメリアの機運は、民衆だけでなく、かつてパルメリアを支えてきた仲間たちにも波及していた。長期化する戦争と粛清に苦しむ人々の声を受け、ユリウスやクラリスは密かに連絡を取り合いながら「パルメリアを止めなければ国は立ち直れない」と行動を起こす決意を固めつつある。
そして、彼らと水面下で繋がっているのが、今も政府に籍を置くレイナーだった。彼は外交業務に携わりながら、内外の情勢を把握し、同時に仲間たちへ細心の注意を払って情報を流している。
夜更け、古びた倉庫の片隅にユリウスとレイナーは顔を合わせていた。保安局の目を盗んで集まれる数少ない場所だ。二人とも、かつてのような高揚感はなく、粛清と戦争の果てに疲労が浮かんでいるが、それでも諦めきれない小さな炎のような意志が瞳に宿っていた。
「……王政を倒したころとは状況が違いすぎる。民は飢え、戦費は膨張する一方。これ以上、パルメリアを放置すれば崩壊は時間の問題だ」
ユリウスがそうつぶやき、拳を握る。革命期には人々を鼓舞し、理想を語ってきたが、独裁と戦争が続く今の有り様に苛立ちを覚えずにはいられない。
「わかってる。何度も彼女を説得しようとしたけど、まともに聞き入れてくれない。民衆は苦しんで、周辺諸国は包囲網を強めてる。……これじゃ、王政より酷い惨状になる」
レイナーは沈んだ声で言う。幼馴染としてパルメリアを説得しようとしながらも、独裁に突き進む彼女を止められないことに深い葛藤を抱えていた。下手に動けば保安局に目をつけられるが、それでも密かにユリウスやクラリスに協力している。
奥からそっと姿を見せたのはクラリス。かつては改革の要となる研究を進めていた彼女だが、今や研究を奪われ、身を潜めて暮らす立場にあった。
「技術も教育も戦争の道具にされるばかりで、未来への投資なんてまるでありません。子どもたちが何も学べないまま戦争に駆り出されるなんて……」
彼女は声を震わせ、かつての夢が踏みにじられる現状に悔しさをにじませていた。
「ならば動くしかない。第二の革命を起こすんだ」
ユリウスの言葉には伏せがちな悲壮感がにじむ。若き日の熱狂とは違う、失ったものの重みを知る者の光がそこにある。
「各地の活動をまとめよう。ビラを配り、秘密集会を取り仕切って、場合によっては軍の一部を引き入れられるかもしれない」
レイナーが素早く提案を重ねる。彼は周辺諸国との外交チャンネルや政府内の情報を熟知しており、こっそりと物資や資金を手配することができる。ユリウスは民衆とのパイプを使い、クラリスは技術や医療面で地下支援の準備が可能だ。かつての革命を進めた面々が再び結束しようとしている。
「ガブリエルはどうする? 司令官としてパルメリアに従っているが、苦悩しているのは確かだ。いつまでも耐えられるとは思えない」
ユリウスが問いかける。軍全体を動かせるガブリエルが仲間に加われば、独裁を打破する決定的な力となる。
「きっと、彼も自分を責めているはず……時が来れば僕たちに手を貸してくれるかもしれない。でも、保安局の監視が厳しいから、慎重に接触するしかないね」
レイナーは短く答え、三人は黙ってうなずきあう。ガブリエルも今の政権に疑問を抱いていると信じたい気持ちがそこにあった。
「……急ぎましょう。これ以上放っておけば、取り返しがつかないことになります」
クラリスが言い、ユリウスとレイナーもうなずく。彼ら自身が動かなければ、何も変わらないのだ。
「よし、各地の抵抗グループと連絡を取り、情報を整理しよう。ビラや秘密集会の計画は俺が持ってくる。保安局に気付かれないよう、細心の注意を払ってくれ」
ユリウスが民衆との連携を取りまとめ、レイナーは外交や政府内でのルートを活用した資金援助や物資の調達を模索する。クラリスは地下で技術や医療支援に動きはじめる。彼らの表情にかつての熱狂はないが、その代わり悲しみと覚悟に裏打ちされた強い決意がある。
「……今度こそ、本当に民のための国を作らないと。もう後戻りはできない」
レイナーはそうつぶやき、ユリウスも「ああ、全力でやるしかない」とうなずく。クラリスは微かな笑みを浮かべる。心に残る希望の灯を、もう一度燃やすために――。
こうして、かつてパルメリアを支えた仲間たちは、再び秘密裡に動き始めた。ビラや密会による「第二の革命」の火種を絶やさぬよう支え、機を見てガブリエルとも連携する算段を立てる。苦悩と哀しみを抱えながら、それでも彼らは国を救う一筋の道に賭けようとしているのだった。




