第34話 再燃する炎
戦場から遠く離れた街の片隅に、一枚のビラが夜陰にまぎれて貼り付けられた。
「再び革命を」
「恐怖政治を倒せ」
その短い言葉は、王政時代には希望を象徴していた「革命」という響きを、今度はまったく異なる切実さとともに人々の胸に刻み込んでいく。
外征による戦費と重税、国内での粛清――何もかもが限界を超え、民衆の我慢はとうに限界に達していた。王政を倒したはずなのに、今やそれを超える恐怖が横行し、大統領親衛隊や秘密警察が巡回する息苦しい日々。わずかな不満を口にすれば捕縛されるこの社会で、「こんなはずではなかった」という憤りが水面下でくすぶり始めていた。
農民や商人、都市の下層民たちの間では、夜ごと密かな会合が開かれ、「もう立ち上がるしかない」という言葉がささやかれる。それはかつて王政を倒した時に感じた熱狂――しかし同時に、重苦しい恐怖の影がつきまとう。もし保安局に知られれば、一瞬で粛清の対象となるのだから。
「こんな生活、もう耐えられない」
「王政より酷いじゃないか。税も兵の徴募も際限がない。抵抗すれば殺される……誰が救ってくれるっていうんだ」
そんな声が、誰にも聞かれぬよう小さく交わされる。家族を奪われ、戦争で飢えに苦しむ人々が、恐怖を振り払いながら「第二の革命」を求め始めるのだ。
周辺諸国との戦争は長期化の兆しを見せ、国力は消耗するばかり。そこにさらなる重税と徴発が課され、農村では飢餓が広がり、都市部では暴動の兆しが色濃くなっていた。これまで秘密警察の弾圧に沈黙していた民衆も、もはや黙ってはいられない状況であった。
夜の闇に紛れて貼られるビラには、力強い筆跡で「パルメリアの独裁を打倒せよ」と書かれている。その紙切れを目にした者は思わず足を止める。見た瞬間に息をのんで周囲を警戒するが、「次の革命」を願う気持ちが、胸の奥で静かに灯りはじめる。
「これ以上、奪われるばかりの生活なんてごめんだ……」
そうつぶやく農民たちの顔には、王政打倒の時と同じ、あるいはそれ以上の必死さが浮かんでいた。
あの日以来、パルメリアの粛清に恐れをなし、多くの者が表立って動くことを諦めていた。しかし、重税と戦争が限界を超えた今、彼女に従う理由を見出せない者が増えていく。一部の若者は密かに武器を調達し、「同志」を探し、情報を集め始めているという噂も絶えない。
「革命なんて二度とごめんだと思っていた。でも、あれを倒さない限り、私たちは生きられない」
「今度こそ王政も独裁もない、本当の自由を……」
そう熱を帯びた声が耳打ちされる時、人々の瞳には小さな炎が宿る。今の政権への恐怖を超える切実さが、そこにはあった。夜ごとの秘密集会では、互いの安否を確かめ合いながら、「次の行動」を相談する。かつての革命が偽りだったのなら、今度こそそれを超える力で立ち上がるしかないと、決意を固める者が増えていく。
この動きを耳にしたかつての仲間――ユリウスも、複雑な思いを抱えていた。革命派のリーダーとして民衆を率いた日々。王政を倒した時、自分たちは確かに民衆の希望だった。だが今、民衆はパルメリアを「打倒」すべき相手と見なそうとしている。
「止めるべきか、それとも……これこそが本当の革命なのか」
ユリウスは苦悩しながら、かつて人々を鼓舞した記憶を思い返す。
しかし彼もまだ動けないまま、国内の民衆は新たな炎を灯し始めていた。場所は違えど、夜ごとに貼られるビラ、秘密の談話、集約されていく不平不満。その小さな火種は、やがて決起の機会へと繋がっていく。
パルメリア自身は、この動きを知らないふりをしているのか、それとも抑え込めると確信しているのか。だが、秘密警察の監視をかいくぐるように広がる「第二の革命」の火は、一度灯ればそう簡単には消えない。切実な痛みと怒りが結びついた時、民衆は静かに、しかし強烈な破壊力をもって立ち上がる。
――こうして、極限まで追い詰められた民衆は、「再び革命を」という声を上げ始めた。ビラや密会という小さな火種が、やがて大きく燃え上がるのか、それとも秘密警察の徹底弾圧に飲み込まれるのか。
かつての革命が再び繰り返されるなら、パルメリアは「打倒される側」として、その嵐に飲み込まれる日が近づいているのかもしれない。




