第28話 戦争の大義
粛清の嵐が国内を覆い尽くし、共和国は血と恐怖の国として世界から孤立していた。そんななか、パルメリアは周辺諸国への侵攻という次の一手を打ち出す。それはかつての王国が行っていた侵略戦争を思わせる手段だった。
すでに周辺諸国は「独裁国家」として共和国を警戒し、国境付近に兵を集めている。国内では物資不足が深刻化する一方で、軍の維持には莫大な資源が求められ、その負担が国全体に重くのしかかっていた。そこでパルメリアが掲げた名分は「隣国の民衆を圧政から解放する」というもの。しかし実態としては、資源の確保や軍事力の誇示が目的に近く、旧王国の侵略行為を思わせる決断と言えた。
(どれだけ否定しても、最初から王政の轍を踏んでいるのかもしれない。けれど、ここで動かなければ国が崩壊すると信じ込まなければ、私はもう生きていけない)
パルメリアが国民に向けて発表した公式声明は「共和国の理念を広め、周辺諸国の民衆を救う」と高らかにうたう。だが実際には、秘密警察や大統領親衛隊が「先行工作」と称して国境を越え、他国の村や町を武力で制圧し始めていた。名目は「偵察」や「反乱分子の摘発」だとしても、資源地帯や肥沃な農地を押さえる行為にほかならない。抵抗すれば国内と同じく容赦なく粛清されるのだ。
「これも国を守るため……外部から封鎖されれば民は飢えるだけだ。だから、こちらから動くしかない」
かつての仲間たちがこの姿を見れば、「王政への鉄槌」を謳っていた頃との落差に言葉を失うだろう。今やパルメリアは海外侵攻が「唯一の道」だと焦燥に駆られ、歯止めが効かなくなっていた。
レイナーは外交の面から「これ以上戦線を広げれば国際社会から完全に見放され、民がより苦しむことになる」と説得を試みるが、彼女は受け入れない。彼女の中では、敵対勢力を叩くことこそが革命を守る手段だという確信が固まっていたからだ。
一方、戦場へ出る兵士たちも、本音を語れる者はほとんどいない。「お上の命令には逆らえない」と、声を上げることなく準備を進める。粛清を見てきた兵たちは、疑問を口にすれば自分たちが粛清される恐れがあるのを知っているからだ。
「内乱を止めたと思ったら、今度は他国へ……。俺たちの血はいつまで流されるんだ」
若い兵のつぶやきも、秘密警察の監視を恐れてすぐかき消される。黙って従う以外の選択肢など存在しない――そんな重苦しい空気の中、彼らは他国民への暴力すら黙認するしかなかった。
こうして「他国の民を解放する」という名目で始まる外征は、実際のところ王政と変わらない、あるいはそれ以上に利己的な侵略行為に等しい。パルメリア自身、書類を読むたびに「王政と同じ道をたどるのか」と胸の痛みを覚えながらも、強い意志でそれを振り払う。
(革命の理想がどう言われようと、今さら立ち止まるわけにはいかない。国を守るためなら、誰もついて来なくても構わない――私が全てを背負えばいい)
「民のため」「自由の国を作る」と誓っていた頃の彼女の姿は遠く、周辺諸国への侵攻命令とともに展開されるのは、旧王国の侵略戦争と見まがう光景。かつて憎まれた圧政と変わらぬ手段が、「革命」を旗印とする彼女の手によって再現されようとしている。
民の中にも「これはただの征服戦争ではないのか?」と疑う者はいるが、保安局を恐れて沈黙を余儀なくされる。一方でパルメリアの周囲の強硬派は「周辺諸国を屈服させれば、資源も領土も手に入る」と高揚感を露わにする。「勝てば革命の正当性を証明できる」――その危うい思惑が、彼女と取り巻きたちを突き動かしていた。
――こうして「改革理念の拡散」という大義のもとに始まる侵攻は、実のところ征服戦争と呼ぶに等しい。内部では粛清が横行し、外には武力と支配を拡大するパルメリアの野望は、王政時代の暗い歴史をまざまざと想起させる。
理想は遠のき、狂気に満ちた独裁が血と恐怖を糧に止まることなく膨れ上がっていく。王政を倒して勝ち取った革命の灯は、いつしか暗い戦雲にのみ込まれていた。




