第27話 侵攻の決断
粛清と秘密警察による恐怖支配が国内に深く根づき、周辺諸国からは「危険な独裁国家」と呼ばれ始めるなか、パルメリアはついに国外への侵攻を決断した。王政時代に行われた侵略戦争を思い起こさせるこの行動は、内向きの粛清から「矛先を外へ」向ける形となり、民衆にさらなる重荷と犠牲を強いることになる。
端緒となったのは、周辺諸国が国境地帯に大量の兵力を配備し始めたという情報だった。国内で粛清を進める一方、パルメリアは「もし敵が攻め込む可能性があるなら、こちらから先に打って出るしかない」と考え、軍部や保安局もこれを後押しして戦時体制へ向けた物資や兵力の再編を急ぐ。
(いずれ戦火を交える宿命なら、先に動けば混乱を抑えられる――それこそ守るべき「秩序」だと信じるしかない。……本当に、そう信じていいの?)
そうしたパルメリアの決断に対し、人々の間では「一方的な侵略」だとのささやきも上がったが、秘密警察が徹底して監視している以上、公に批判することは誰にもできない。少しでも疑問を口にすれば、たちまち「反逆者」として追われかねないからだ。
外交を担うレイナーは、国際関係がほぼ崩壊状態であることを痛感していた。周辺諸国はすでに共和国を「狂信的な独裁者が支配する国」と見なし、国境を固めている。もし先に攻撃を仕掛ければ全面衝突は避けられず、大量の死者と混乱を招く――彼はそう危惧していた。
「頼む、これだけは思いとどまってくれ! 今戦争を仕掛ければ、内外の敵意を一気に買う。これ以上、国際的な信用を損なえば、民が苦しむだけだ……」
だが、パルメリアは一切聞く耳を持たない。昔とはまるで異なる冷徹な光を瞳に宿し、きっぱりと答えるだけだった。
「隣国に攻め込まれるのを待つより、こちらから行動を起こす方が被害を減らせる。彼らがこちらを脅威と見る以上、口先での和平なんて時間の無駄よ。……『革命の理念』を広めるためにも、今は外へ打って出るしかないの」
(王政と戦い、誰もが自由に生きられる社会を作ろうとしたはずなのに、いつの間にか、私は王政と変わらない道を選んでいる。この道を選んだ以上、もう後戻りはできない。どんな結果が待っていようと、私はこれを進むしかない……)
軍部と保安局は侵攻準備を加速させる。徴兵枠は拡大され、兵糧や装備を確保するため、各地で厳しい徴発が行われていた。人々の生活は限界に近づき、苦しむ声も上がるが、保安局の眼を恐れて誰も声を上げられない。
「王政も民を苦しめたが、あの頃より酷いんじゃないか……どこへ向かう気なんだ」
「しっ、保安局に聞かれたらどうする!」
路地裏で交わされる小さな声は、すぐにかき消される。黙っていれば生き延びられるかもしれない――そんな受動的な諦念が、パルメリアの独裁を一層固めていく。
かつての仲間の一人、ガブリエルは国防軍の司令官として外征の最前線を任される立場だ。「なぜ周辺諸国にまで剣を向けなければならない?」と疑問を抱きながらも、命令に背けば自分や部下が粛清されるかもしれない。そんな思いを抱える彼の横で、強硬派の将軍たちは「侵攻こそ生存手段だ」と声を上げ、パルメリアも肯定的にうなずくだけだった。
(もう戻れないのか。私は戦争に手を貸し、民も他国の人々も危険にさらすしかないのか……?)
こうして「周辺諸国への侵攻」は、正式な決断として布告される。公の大義名分は「共和国の理念を広める」「圧政を倒して自由をもたらす」と掲げられるが、隣国から見れば、それは過去に王国が領土拡張を図ったのと変わらない口実だった。すでに国境付近では防備を強化され、両国の衝突はもはや時間の問題と誰もが感じている。
侵略戦争が始まれば、国内外でさらなる血が流れるのは明白。それでも、内部には粛清の炎が燃え盛り、「外敵」に向けて戦意を煽る動きが拡大していた。革命の志半ばで去ったクラリスやユリウス、踏みとどまるも苦悩を深めるレイナー、そしてガブリエル――誰もが悲壮感を募らせつつも、この独裁路線を止める手立てを見出せない。
――こうして、パルメリアはついに周辺諸国へと矛先を向けた。国内の不満を外へ逸らし、共和国の旗を異国の地へ広げる。革命の理想は、もはや正義の名の下に戦争を進める口実と化していた。国内を支配した粛清の嵐は、今度は国外へと広がり、パルメリアの狂信をさらに加速させていくのだった。




